サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

『誘惑は嵐の夜に』 母と娘の入れ替わりコメディ

誘惑は嵐の夜に

 ラブストーリーのシリーズ第2弾のなかの作品

 大ヒット中の『君の名は。』でも取り上げられている入れ替わりが題材となっているコメディ。ここで入れ替わるのは母と娘。母・佐和子を演じるのは高樹澪で、娘・康子は石川優実。入れ替わり方もじゃれあっているときに落雷があってというベタな設定なのがかえって笑える。

 このシリーズだからベッドシーンはもちろん見せ場となっているのだが、その役目は石川優実のほう。高樹澪は娘と身体が入れ替わってしまったあとに、鏡の前で下着姿となってその身体を確認するシーンがあるくらい。

 石川優実演じる康子のほうは何度かベッドシーンがあるのだが、中身が入れ替わってからは身体は康子でも中身は母親・佐和子という設定だから、中身の佐和子は若い肉体を利用してよく知りもしない男性とエッチをしてしまったりする。

 母親としてはあり得ない行動だとは思うのだけれど、基本はコメディだからそんなものだろう。若い身体を取り戻すことはそれなりに歳を取った女性としてはそれだけ重要なことだったのかもしれない。母親の身体になってしまった康子のほうは、夫(つまりは中身の娘にとっては父親)との関係が問題になったりするけれど、あまり変化はなかったようだし……。

 丸純子も脇役で顔を出していて、バーのママというちょっとケバい感じの役柄を見せている。


『ジムノペディに乱れる』 ロマンポルノ再び

 『世界の中心で、愛をさけぶ』『ピンクとグレー』行定勲監督による初のロマンポルノ作。「日活ロマンポルノ」リブートプロジェクトの1作。

ジムノペディ

 ロマンポルノに色々と制約があるのは知っていたのだけれど、「10分に1回絡みのシーンを作る」「7080分前後の上映時間」「全作品が同じ製作費」「撮影期間が1週間程度」という、かなり厳しい条件があったことまでは知らなかった。今回の『ジムノペディに乱れる』もそんな条件のもとで製作されたからだろうか、無理やりに絡みのシーンが挿入されてくるようでかえって苦労している感じがした。

 今ほどポルノが氾濫していなかった時代にはそうした条件が目玉となったのかもしれないけれど、今ではネットでいくらでもそんなものは転がっているわけで、絡みの部分が足かせになっているようにも思えた。

 

 芦那すみれ岡村いずみをはじめとする女優陣は皆さんきれいで、当然のことながら脱ぎっぷりもいい。絡みのシーンとなるたびにジムノペディが流れるという律儀な展開はだんだんと笑えてくる感じもするものの、劇場内に笑いが漏れることはなかった。主人公の映画監督・古谷慎二(板尾創路)が背負っているものはそれなりに重く、事故で入院中の妻のために金策に走ったりしつつ映画を撮ろうとしているわけだけれど、映像としては陰鬱な感じはほとんどない。

 日の光をふんだんに取り入れた撮影は行定監督らしい部分なのかもしれないけれど、わざわざ行定監督が参加する必要があったのかともちょっと思わないでもない。本当に撮りたかった脚本はなぜか却下されたようだし、あまり気が乗らなかったのだろうか。もともと行定監督のラブシーンってあまり印象にないのだけれど、威勢がよかった『GO』でも柴咲コウの初体験シーンはひどく凡庸だったと思うし、ロマンポルノという枠組みに合う人と合わない人がいるのかもしれない。


『無伴奏』 懐かしいあの時代?

 原作は直木賞作家の小池真理子の同名小説。

 監督は『三月のライオン』などの矢崎仁司

無伴奏

 冒頭で成海璃子が黒板前で脱ぎ始める。下着姿になって訴えるのは制服廃止運動で、時代は全共闘運動華やかりしころだとわかる。それにしてもなぜ今になってこの時代なのかはよくわからない。原作者は自らの青春時代をなぞっているだけなのだろうが、この時代はちょっと特別な感じもしてわかりづらいような気もする。

 “革命”という熱狂が本当にあったのかどうかはその後に生まれた人間としては未だに理解に苦しむところがあるし、登場人物たちもマルクスを読んでるわけでもないし、その当時人気だった高橋和巳や吉本隆明よくわからないと正直に告白しているから流行り病みたいなものだったのかもしれない。

 それまでの体制をつぶそうとするような行動は親世代にしてみたら、「全員逮捕して銃殺刑にすればいい」という唾棄すべきものなのだろうし、後続世代からしても賑やかなところに羨望を覚えたりはするかもしれないけれどやはり理解しにくいんじゃないだろうか。「ゲバルト・ローザ」とか言われてもその世代の人以外の誰が理解するんだろうかと心配になったりもした。

 

 そんなわけでその時代の若者たちの群像劇だと勝手に推測していると実はまったくそんなことはなく、学生運動は単なる背景でしかなかったようだ。その世代の作家三田誠広はあの時代は暗い顔をしているほうがカッコいいと思われるようなところがあったとどこかで記していた。主人公・響子(成海璃子)の恋人となる渉(池松壮亮)も暗い表情をしているのだが、彼の悩みはエリートが日本社会を憂う類いものではなくてごく個人的なものに過ぎない。

 というかこの作品は原作者の自伝的な小説らしいのだが、かなり色々詰め込みすぎているようにも思えた。結局は恋愛の話になっていくのはいいとしても、近親相姦やホモセクシャルとかが出てきたかと思えば、人間関係のトラブルから殺人だとか自殺だとか、ひっちゃかめっちゃかなのだ。自伝的だというのは無茶苦茶な展開を理由付けするためのものなんじゃないかと思えるほどだった。本当にそうした時代を過ごしてきたのだとすればすごいことだけれど、結局のところラストの印象としてはあのころが懐かしいといったものしか残らないような気がする。

 成海璃子がベッドシーンでもあまりに不自然なくらいに胸を死守するのは、のちに登場する男同士のベッドシーンが強烈になるような配慮なのだろうか。覗きをする斉藤工のじっとりとした目付きがとてもよかった。

『再会-禁じられた大人の恋』 熊切あさ美の主演作品

 ラブストーリーのシリーズ第2弾。

 主演にはそのころ噂の誰かとの破局で話題となっていた熊切あさ美

 85357-b3

 結婚6年目を祝ったばかりの主婦・由美子(熊切あさ美)だが、すぐ隣の家に引っ越してきたのがかつての恋人・浩司(大口兼悟)であることを知り困惑する。近所付き合いとして無視するわけにもいかない間柄となり、ふたりの間にはかつてのような感情が芽生えてくる。

 

 よくある不倫ものである。由美子の夫・幸彦(本宮泰風)には何の落ち度もないのだが、浩司と由美子はかつてダンスのパートナーであり、再びふたりでダンスを踊ることになると感情も盛り上がってしまう。ここでのダンスというのはいわゆる社交ダンスというのがちょっと古臭い感じだが、ダンスの場面となると急に照明が当たって非現実的な感覚の演出をしている。

 このシリーズだけにベッドシーンは付きものだが、主演の熊切あさ美にはさすがにちょっと控え目。胸を揉まれるところまでが限界で、あとは脇役を演じるほかの女優(荒井まどか)が見事なおっぱいを披露してくれている。

 熊切あさ美はその当時話題の人物だったから取り上げられたということなのだろうと思うのだが、とてもきれいな人だと思うのだが緊張からか妙に表情がかたいという印象なのが惜しいところだろうか。

 

『歌声にのった少年』 アラビアン・サクセス・ストーリー

 『パラダイス・ナウ』『オマールの壁』のハニ・アブ・アサドの最新作。

 実話をもとにした作品。

20160519-TheIdol-th-th-thumb-950x555-27699

 パレスチナのガザ地区に住むムハンマド・アッサーフのサクセス・ストーリー。

 ガザ地区の破壊のされ方はかなりひどい。空爆でビルも破壊され、廃墟のような状態のまま放置されている。それでもガザの人々はそのなかでも普段のような生活をしている。子供たちは音楽に夢中だし、崩れたビルを利用してパルクールみたいに飛び回っている若者たちもいる。もちろんガザ地区は防護壁に囲まれて出て行くことも難しい場所で、ムハンマド・アッサーフにしても絶望を感じていたりもする。

 ムハンマド・アッサーフは見事な声の持ち主で、ガザ地区を抜け出し「アラブ・アイドル」というオーディション番組に出演。それがアラブ世界の注目の的となり、一躍誰もが知るアイドルとなる。

 

 ムハンマド・アッサーフが国境を抜け出すときにはコーランの一節か何かを朗々と謳い上げることで国境監視員を感動させて見逃してもらう。以前に取り上げた『少女は自転車にのって』でもそうしたコンテストがあったけれど、アラブ世界ではそうした歌声の素晴らしさに対しての評価が高いようだ。だからこそムハンマド・アッサーフが人気者になったということなのかもしれない。

 事実をもとにした作品でムハンマド・アッサーフを演じているのは、役者が演じているわけだが、最後に「アラブ・アイドル」で優勝を勝ち取る瞬間に突然実際のムハンマド・アッサーフ本人が登場して主役を乗っ取ってしまうという演出はちょっとどうかと思った。しかもそれまで演じていた役者よりも、ムハンマド・アッサーフのほうが見栄えがよく見えてしまったりして妙だった。普通なら実話をもとにした作品は現実をさらに美化しようとするものだと思うのだけれど……。

 子供時代の部分はとても楽しい。男っぽくてムハンマド・アッサーフに夢を与えることになる姉は、腎不全で亡くなってしまうのだがとてもかわいらしかった。


  • ライブドアブログ