サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

『ディアーディアー』 リョウモウシカとは何の象徴?

 監督の菊地健雄は映画界での下積みが長いらしく、公式ホームページでは多くの監督たちからのコメントが寄せられている。ついでに言えば、ゲスト的な役柄で染谷将太菊地凛子の夫婦も顔を出しているのも見物。

 ちなみに題名は「dear deer」。昔初めて『ディア・ハンター』を観たころは、「親愛なるハンターさん」と勘違いしたのを思い出した。


 群馬県を舞台にした作品。

 同じく北関東を舞台にした『ローリング』『お盆の弟』とともに北関東3部作とか呼ばれることもあるのだとか。茨城県を舞台にした『ローリング』もそうだったのだけれど、町自体が停滞した感じでどことなく住人にも倦怠感が感じられる。ヤンキーばかりのイメージな北関東。けれども実際にヤンキーに交じってごく普通の人もいなくもない。ただヤンキーと同じで何かしら鬱屈は抱えている。そんな感じが北関東という舞台にはよく出てるのかもしれない。

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 父親が危篤となり、地元を出ていた妹と弟を迎える長男。

 父親から工場を受け継ぎ地元のしがらみにもがんじがらめになっている長男・富士夫(桐生コウジ)と、精神的にとても不安定でトラブルメーカーの次男・義夫(斉藤陽一郎)、そんな兄たちから逃げるように都会へ去っていた末娘の顕子(中村ゆり)はややアル中気味。

 その町ではかつてリョウモウシカという幻の鹿が発見されて、それは地元経済の起爆剤となるはずだった。一時はそれを町のシンボルにしようと画策して地域住民は盛り上がったわけだが、それは幻に終わることになる。騒動のきっかけを作ってしまった富士夫と義夫は父親と共に恥ずかしい思いをすることになる。義夫は未だに「ぜんぶシカのせいなんだ」という思い込みで過去に引きずられている。

 兄弟の誰もがちょっと壊れていて、通夜の場ではそれまでなだめ役だった長男の富士夫までキレまくって大喧嘩になってしまうあたりはなかなか笑える。それにしても幻のように現れては消えてしまうリョウモウシカとはいったい何のことなのだろうかとちょっと気になる。

 横顔が凛々しい主役の中村ゆりはスレンダーだけれど妙にエロいところがあった。ネットで検索してみると、あの斎藤工と噂されているのだとか。何となく「そりゃあエロくもなるか」などと納得。


追記:言い忘れたけれど、エンディングテーマを担当しているのは「森は生きている」というロックバンド。この映画の劇伴はそのバンドのリーダーが担当しているらしいのだが、即興的な演奏でとてもカッコいい。

『神様メール』 無茶苦茶な神様だけれどそんなものかも

 ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の最新作。原題はTHE BRAND NEW TESTAMENT

 ジャコ・ヴァン・ドルマルと言っても、これまでに4作品しか撮っていないという寡作な人だけにあまり知られていないかもしれないが、カンヌ映画祭でカメラ・ドール賞を受賞した『トト・ザ・ヒーロー』は大好きな作品(「ブン!」という古臭い曲が耳から離れない)なので、劇場まで観に行ってきた。

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 なんと神様はベルギーのブリュッセルにいたという設定。この神様(ブノワ・ポールヴールド)はパソコンで世界を動かしている。気晴らしに自分に似せて人間を創り、様々な災害を降り注いで鬱憤晴らしをしている。さらには変な法則――マーフィーの法則によく似ている――を作ってこの世界を生きづらくしているというとんでもない神様。

 とは言えこの神様は自分のことを「嫉妬深いの神」と呼んだユダヤ教の神(旧約聖書の神)とよく似ている。この作品ではイエスも登場する。イエスは主人公エア(ピリ・グロワーヌ)の兄という設定。2000歳以上も歳の離れた兄妹なのだ。キリスト教はイエスが神との新しい契約(新約聖書)を結んだことが始まりとなっているわけだが、エアはその契約をさらに更新して「新・新約聖書(THE BRAND NEW TESTAMENT)」を示すことになる。

 

 最初はなかなかテンポがいい。エアが神様に反旗を翻して、人間に決められた寿命をメールで知らせてしまうと、下界はちょっとだけ混乱に陥る。寿命にさらに先があると知ると、自殺を図るバカな男は何をやっても死ぬことはない(ひどい怪我を負ったりはするのだけれど)。

 しかしながら中盤以降の新たな使徒として集められる人々のエピソードがあまり弾けた感じがないのがちょっと残念なところ。カトリーヌ・ドヌーヴも登場するけれど、もったいない使い方。ただラストは心暖まる話になっていると思う。クソみたいな男の神様よりも女のほうが世界をうまく生きているというのは、人間と同様なのだろうと思う。

 『8日目』の主人公だったダウン症の男の子がちょっとだけ顔を出しているのが嬉しい。それでもそのエピソードはダウン症の人たちのシビアな現実を垣間見させるもので、『8日目』で描かれたことはあまり変わっていないのだろうと思わせる。

『ヒメアノ〜ル』 おもしろうてやがて悲しき映画哉

 原作は『ヒミズ』『行け!稲中卓球部』などの古谷実

 監督は『銀の匙 Silver Spoon『ばしゃ馬さんとビッグマウス』などの吉田恵輔

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 前半のいささかのんびりしたラブコメから一気に転調する後半がとても恐ろしい。キャストたちはとても原作のイメージに合っていたと思う。マンガチックな顔立ちの濱田岳佐津川愛美がアホっぽくいちゃつくのは可愛らしいし、そのカップルからはじき出されてしまうことになるキモイ男役のムロツヨシはおいしいところを持っていった。

 とはいえこの映画の主人公は殺人鬼森田を演じた森田剛で、ジャニーズタレントがここまでやってもいいのだろうかという妙な心配をしてしまうほどだった。森田が演じるのは中学のときにいじめられ、みんなの前でオナニーをさせられたりした挙句に狂気に陥ってしまったという男。とにかく常軌を逸していて、手当たり次第に殺しはするはレイプするはで、完全に死刑は確定だからかえって恐いものがないという……。そんな男に狙われたから濱田と佐津川のカップルは大変なことになるのだが、最後はそんな森田にちょっと同情してしまうというところがミソだろうか。

 

 佐津川愛美がとてもよかった。マンガのキャラはもっとマヌケなところがあったように記憶しているけれど、佐津川愛美のくりくりした目はマンガのイメージにあっているし、結構大胆な濡れ場も演じていてびっくりした。濱田とのベッドシーンではバストトップは一応無理やり隠してはいるけれど、バックの体位でやられたりして奮闘している(この体位が別のシーンとカットバックされているところが見どころとも言える)。

『ひそひそ星』 園子温の念願だった作品

 園子温の最新作。オリジナル作品としては『希望の国』以来の作品。モノクロ(一部カラーもあり)でとても静かな作品。

 最近はバカ騒ぎばかりの作品が多かったのは、結婚もして雇われ監督として金を稼ぐつもりなのかと思っていたのだが、ここに来てオリジナル作品をシオンプロダクションの第一弾として、しかも娯楽を廃した芸術作として発表してきた。

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 現在、宇宙は機械によって支配され、人工知能を持つロボットが8割を占めるのに対し、人間は2割にまで減少している。アンドロイドの鈴木洋子は、相棒のコンピューターきかい67・マーMと共に宇宙船に乗り込み、星々を巡って人間の荷物を届ける宇宙宅配便の仕事をしていた。ある日、洋子は大きな音をたてると人間が死ぬ可能性のある「ひそひそ星」に住む女性に荷物を届けに行くが……。(映画.comより引用)

 

 ぼくがこの映画を観た日には上映終了後には、園監督の奥様であり主演を務めた神楽坂恵さんと、園監督のドキュメンタリーを撮った大島新監督との対談があった(ちなみに大島新さんはあの大島渚監督の息子さん)。

 神楽坂さんの本名は「園いづみ」だとか。園作品で「いづみ」という女性が主人公になりがちだったのは、園監督の母親が「いづみ」であったことでもあり、のちに奥様となる神楽坂恵さんも「いづみ」だったかららしい。そんな神楽坂さんはイベントではすっかりプロデューサーの雰囲気だった。

 この作品は園監督にとって大事な作品で、それを新会社の第一弾として近しい人たちだけでつくることにも意義があったようだ。大島新監督もこの時代にこうした作品がつくられるのは貴重なことと語っていた(この作品は『希望の国』と同じように福島の風景を捉えた作品でもある)。

 ただ一方で作品の感想としては「好みが別れるだろう」といったことも語っていて、ぼくも個人的には朦朧としながら観終わったというところ。本当に何も起きないのだ。水道の蛇口から水が滴るだけで1日が過ぎるとか、本当にミニマルな映画なのだ。

 静かな宇宙船の雰囲気とか、火をかかげながら歩き回るシーンなどあちこちでタルコフスキーを意識させる。タルコフスキーも眠りを誘う部分があるけれど、一度ぐっすり寝たあとにもう一度チャレンジするととてもその良さがわかる作品なのかもしれない。神楽坂さんは火をかかげながら歩き回るシーンで久しぶりに園監督に怒られたそうで、そんな意味でも園監督の本気度がわかるエピソードだった。園監督は意外と役者を追い込むばかりではないようだ。

 この作品は25年前に構想した作品とのこと。『ラブ&ピース』もかつてのアイデアの蔵出しという部分があるようだが、過去を整理した園子温がどこへ向かうのかはやはり気になるところではある。

『草原の実験』 大草原の小さな家に住む美少女

 場所は特定されないけれど中央アジア風の草原の風景のなかの1軒の家。そこにモンゴロイド風の親父とその幼い娘が住む。少女には幼馴染の馬に乗った若者がいるが、ある日、金髪の青年が現れる。男ふたりが少女を取り合っての三角関係が始まるのだが……。 Le-souffle-la-critique_article_landscape_pm_v8

 雄大な草原の風景はそれだけでも美しい。そこに真っ赤な太陽が昇り、やがて沈んでいく。そういう自然のなかで飛行機乗りだったらしい親父と美しい少女の生活が描かれていく。多分それだけだったらもっと牧歌的な映画になっていただろうと思うのだけれど、この作品には少女を演じたエレーナ・アンのただならぬ存在感がある。

 エレーナ・アンはモスクワに住むロシア人と韓国人のハーフとのこと。この役柄は撮影当時14歳という微妙な年齢だからこそできた役だろう。作品のなかのエレーナ・アンは少女のようにも大人の女性のようにも見える。モンゴリアンのようにも見えるし、ロシア系の雰囲気もある。その笑顔は無邪気のようでもあり、男たちをもてあそぶような匂いもかすかに感じられる。瞳には強い意志を示す瞬間があるかと思えば、妙に儚げな表情を見せたりもする。とにかくその存在じたいに魅了されたのだ。

 この映画はもともとは台詞がある設定だったのだとか。しかし、この完成したバージョンにはまったく台詞がない。監督のアレクサンドル・コットはエレーナ・アンに惚れ込んでヘタな演技をさせるより、ただ草原のなかに美少女を立たせてこちらを見つめさせるほうを選んだのだろう(多分それは大成功だったと思う)。

 映画の設定すら変えさせてしまった美少女は確かにとても存在感があって、エレーナ・アンを見ているだけで満たされた気持ちになる1本だった。『草原の実験』という題名にある“実験”というのはカザフスタンであった実際の出来事らしいのだけれど、衝撃的なラストよりもぼくにはエレーナ・アンの姿ばかりが目に焼きついて離れなかった。


 ↓ こちらは舞台挨拶に来たときのものらしい

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 この映画とはまったく関係ないけれど、台詞がない映画でとてもヒロインが素敵だった作品として『ツバル』を思い出した(どことなくコミカルな部分があるところも似ている)。『ツバル』のチュルパン・ハマートヴァはこの映画のエレーナ・アンほど美形ではないけれど、とても表情豊かでかわいらしかった。



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