サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

『私たちのハァハァ』 女子高生の青春に怖いものはない

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 『自分の事ばかりで情けなくなるよ』クリープハイプの尾崎世界観とコラボレートしていた松居大悟監督の最新作は、クリープハイプのファンの女の子たちが主人公。クリープハイプに「東京のライヴも」と誘われたから実際に行くことにしたという無鉄砲な4人組。女子高生たちが自転車で北九州から東京までを疾走するというロードムービーだ。

 松居大悟監督は『スイートプールサイド』以来気になっていて、『ワンダフルワールドエンド』もとてもよかったので、これまでの作品はすべて観てみた。ちょっと前に出た本『さあハイヒール折れろ』なんかも読んでみたのだが、どうやら松居監督の映画の主人公は監督本人によく似ている(原作が別にある場合もあるけれど)。

 上記の著作(ネットで連載していたもので、こちらでも読める)によれば、松居監督はまさに『アフロ田中』みたいな童貞キャラをネタにしていた模様。結局、その本の最後の対談では童貞は卒業してしまったことも明らかにされているのだが、だからなのかどうかわからないけれど『私たちのハァハァ』は意外にもまっとうな青春映画になっている。言い換えれば童貞のこじらせ感がなく、真っ直ぐな女子高生の青春物になっているのだ。

 主役の4人は皆それぞれにキャラが立っていてよかったと思う。上のスチールの向かって左から紹介すると、大関れいかは6秒動画とかで人気とかでこの映画でもカメラ慣れしている印象でおもしろい存在。井上苑子はちょっと不良っぽい外見だけれど、声がかわいらしい(実際にシンガーソングライターだとか)。真山朔は一番普通の女子高生らしくてとてもかわいい(ちょっと夏帆っぽく見える瞬間も)。三浦透子は唯一演技経験があるとのことで、クリープハイプにはまってちょっと狂気に陥る難しい役どころを演じている。最初は自分たちのカメラで旅を撮影しているという設定になっているからか、ごく自然な4人の旅の様子が捉えられていたと思う。

 『自分の事ばかりで情けなくなるよ』では第2話のクリープハイプのアンコールに間に合って涙するOLのエピソードが良かったのだが、『私たちのハァハァ』もそれに似た場面もある。ただ結末はちょっと違う。やはり青春ってそんなものだよねというところだろうか。

『EDEN/エデン』 幻の鳥の行方は?

 90年代から00年代にかけてのフランスのダンス・ミュージック・シーンが題材となっている。フランスの音楽が流行っていたことすら知らないし、クラブなんかにも出入りしないぼくにはまったくこの映画を語る資格がないのかもしれない。ただミア・ハンセン=ラブ監督の評判(未見だが前作『グッバイ・ファーストラブ』がとてもいいのだとか)を聞いて観に行った。

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 名前くらいは聞いたことがあるダフト・パンクが登場するものだから、チアーズというDJコンビも有名な存在なのかと思ってしまったのだが、そうでもないようだ(チアーズは実在したようだが、多分知る人ぞ知るというような存在なのだろうと思う)。そんなだから主人公のポール(フェリックス・ド・ジヴリ)が神様などと呼ぶ人物が登場しても、それが現実の大物のことを指していて歴史的な瞬間を示しているのか、単なる成功へのエピソードのひとつなのかがわからずにちょっと困った。

 そんな疎い人が見ると、この作品は意外と淡々と進行していくように見える(よく知っている人が見ると違うのかもしれないが)。ただつまらなくはない。もちろんそれは音楽的な良さもあるのかもしれないけれど、第2部に入ってからのほろ苦い感じがとてもよかったのだ。

 ダフト・パンクが数少ない成功者だとしても、ほかには星の数ほど挫折していく人たちがいるわけで、チアーズもそこそこ成功はするもののダフト・パンクにはなれない数多くのほうになることになる。そのなかには夢破れてというかほとんど自滅していくように自殺してしまう人がいたりもするし、ポール自身も借金とドラッグでにっちもさっちもいかない状態になる。

 数多い恋人たちが登場するが、そのなかでも一番重要なルイーズも主人公を捨てて日常生活へと戻っていくわけだが、ポールはいつまでもモラトリアムを抜け出せないあたりが身に染みる。冒頭でアニメで描かれるカラフルな鳥が登場するのだが、それは二度と姿を現さない。ポールが追っていたのはそんな幻の鳥の姿ということだろうか? DJの夢をあきらめた後でダフト・パンクの曲(Within)がかかるシーンがとても印象に残る。

 

 ポールの恋人役には『フランシス・ハ』グレタ・ガーウィグとか、名前もない小さな役柄でもかわいらしいフランス娘たちが登場する。それでもやはりルイーズを演じたポーリーヌ・エチエンヌが一番好み。20年に渡る物語の最初から最後まで登場していろんな姿を見せてくれる。



『黒衣の刺客』 武侠物といっても変わらぬホウ・シャオシェン

 ホウ・シャオシェン監督の最新作。

 カンヌ映画祭では監督賞を受賞した。

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 ホウ・シャオシェン作品なのになぜか武侠物ということで劇場まで足を運んだものの、やはりテイストは変わらなかった。というよりも本当に武侠物なのかというくらいアクションシーンは少ないし、特段にそれがすごいわけでも緊張感があるわけでもない(と思えた)。

 フィルムで撮影したという映像はたしかに美しいのだが、室内のシーンなどで登場人物が訥々と語るのを、カメラがゆっくりとしたスピードでパンしながら右に左にと追っていくスタイルが出てくると、あまりにゆったりしてうっとりしてうとうとしかけてしまう。

 昔の作品、たとえば『悲情城市』とか『恋々風塵』とかはとても好きだったのだけれど、どうも『憂鬱な楽園』『フラワーズ・オブ・シャンハイ』からはちょっとついていけない感じになってきて、それは今回も変わらなかった。

 今回も主演はスー・チーで、その相手役はチャン・チェンということで、ふたりが共演した『百年恋歌』のように恋愛の話のようにも感じられる。スー・チー演じる主人公・聶隠娘は暗殺者で田季安(チャン・チェン)を殺すように命じられるのだが、実はふたりはかつての許婚だった。そんなわけで殺しに行くもののそれを果たすことはできないといった場面が何度も繰り返される。それにしても武侠物ならばやはりキン・フーみたいなものを観たかったなあと思ってしまう。ホウ・シャオシェンとは毛色が違うかもしれないけれど。

 日本からは妻夫木聡忽那汐里が登場している。あまり出演シーンは多くないけれど、忽那汐里の雅楽(?)みたいな衣装は素敵だった。


『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』 天才ブライアン・ウィルソンの半生

 The Beach Boysブライアン・ウィルソンの半生を描いた作品。

 The Beach Boysと言えばサーフィン・U.S.A.のイメージだが、実際にはほとんど聴いたことはなかった。ぼくの世代はリアルタイムで接するには遅れているからそんなものかもしれないが、初めてまともにThe Beach Boys聴いたのはトム・クルーズが主演した『カクテル』1988年)の主題歌「ココモ」だった。ただ、この曲はブライアン・ウィルソンのものではないようだ。

 ちなみに1990年にはWilson Phillipsという女性3人のコーラスグループが登場して、「ホールド・オン」という曲が大ヒットさせ美しいコーラスを聴かせていた。そのうちのふたりはブライアン・ウィルソンの娘たちだったのだとか。それから村上春樹の小説には何度もThe Beach Boysやブライアン・ウィルソンのことが書かれていたけれど、それでも聴こうとはしなかった。そんなわけでブライアン・ウィルソンの近くをうろついてはいたものの、つい最近までブライアン・ウィルソンのことを知らなかったのだ。

 きっかけは最近読んだ『ビートルズの真実』で、The Beach Boys「ペット・サウンズ」The Beatlesの傑作「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」にも影響を与えていたという記載があったから。実際に「ペット・サウンズ」を聴いてみると、たしかに素晴らしいアルバムだったのだ。

 「ペット・サウンズ」だけを論じた本が色々と出ているようで、ぼくも村上春樹が翻訳した『ペット・サウンズ』『ビーチ・ボーイズ ペット・サウンズ・ストーリー』などを読んだ。1枚のアルバムに対して本が書けてしまうというほど「ペット・サウンズ」というアルバムが衝撃的だったということだろうと思う。

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 そんなわけでThe Beach Boysに関してもブライアン・ウィルソンに関しても素人なのだが、劇場に『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』を観に行ってきた。この作品でブライアン・ウィルソンを演じるのはポール・ダノとジョン・キューザックのふたり。「ペット・サウンズ」を製作していたころを演じるのはポール・ダノで、ぽっちゃりしたところまでよく似ている。その後、精神的に参ってしまいランディ医師(ポール・ジアマッティ)に囲われている時代を演じるのがジョン・キューザック。現実のブライアン・ウィルソンに似ているのはポール・ダノだろうが、精神的な病でぼんやりとしているという雰囲気をジョン・キューザックはうまく出していたと思う。

 音楽の世界は大きな金が動くようだ。The Beach Boysの成功でブライアン・ウィルソンには近寄ってくる良からぬ輩も多かったと思われる。もっとも最初にブライアン・ウィルソンの敵となるのは父親なのだが……。その後は医師ランディがブライアン・ウィルソンを金づるとして利用しようとする。

 のちに奥様となるメリンダがブライアンに近寄ることを許さないのは、金づるを手放したくないからで、医師ランディはメリンダに「(ブライアンから)金を搾り取りたいならば、列に並べ」と本音を吐く。つまり順番は俺の後だというわけで、そんな輩に利用される天才という役割は大変なのだろうなと同情してしまう。

 最後に、復活したブライアン・ウィルソン本人が「ラブ&マーシー」を歌う姿が映し出されるのが泣かせる。「ペット・サウンズ」製作のスタジオがかなり正確に再現されているらしく、様々なアイディアで音作りをしていく過程がおもしろい。多分、昔からのファンの人にはたまらない作品なんじゃないだろうか。とは言え、「ペット・サウンズ」を聴くほどこの映画が素晴らしいかと言うと、そんなことはないと思う。やはりそのくらい「ペット・サウンズ」は素晴らしい。



『ホドロフスキーのDUNE』 あの幻の作品についてのドキュメンタリー

 アレハンドロ・ホドロフスキーの未完の映画『DUNE』についてのドキュメンタリー。昨年劇場公開され、6月にソフトがリリースされた。

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 『デューン/砂の惑星』と言えば、デヴィッド・リンチ1984年に映画化した作品だ。以前テレビで見たがSF大作というリンチらしくない題材が悪かったのか、壮大な感じはしたが失敗作としか思えなかった。リンチの映画化の際にも製作が難航したという噂はどこかで読んだ記憶があった。「製作が難航」というのは、結局は企画倒れになったということで、その企画の主が『エル・トポ』のホドロフスキーだとは知らなかった。

 この作品は基本的にはホドロフスキーのインタビューが中心になっていて、彼が戦士と呼ぶ製作陣の言葉や、奇抜なメカデザインなどのアイディアが散りばめられている。ホドロフスキーの出世作『エル・トポ』はカルト人気がある作品でおもしろかったが、最近の『リアリティのダンス』は破天荒な作品なのだがどうにもノレれず、劇場で眠さと格闘した記憶しかない(あとは放尿のシーンくらいか)。

 この『DUNE』を観ると、作品よりも監督自身のほうが何倍も面白いんじゃないかと思えてくる。『DUNE』とはホドロフスキーにとって映画の革命のようなものだったようだ。とにかくホドロフスキーは熱い男だ。その語り口を聴いているとそれだけで気分が高揚してくるようだ。製作陣の面々もそんなホドロフスキーの言葉にはまっていたようで、製作が中止になったのは本当に残念なことだ。

 スタッフとしてはダン・オバノンH・R・ギーガー、役者としてはサルバドール・ダリミック・ジャガーオーソン・ウェルズ、音楽にはピンク・フロイドまでが名前を連ねている。彼らが生み出したストーリーボードは後にハリウッドの多くの作品にインスピレーションを与えることになったようだ。『スター・ウォーズ』『エイリアン』もそこからアイディアをいただいている(ダン・オバノンとギーガーは『エイリアン』で重要な役割を担っているのは有名な話)。つい最近の『プロメテウス』にもギーガーのデザインが利用されているが、そんな人材をあちこちから掘り出してきて映画に参加させたホドロフスキーのエネルギーもすごいものだと思う。


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