ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス監督作品。ふたりが監督した『リトル・ミス・サンシャイン』はとてもかわいらしい映画で、家族がワーゲンの黄色いミニバスで旅をするロード・ムービーだった。ちなみにこのミニバスのイメージを借りたのが『少年メリケンサック』や『ハラがコレなんで』だと、映画評論家の森直人が指摘している。公開中のケン・ローチ監督『天使の分け前』でも、主人公が手にした金で手に入れたのが水色のワーゲンのミニバスだった。家族がミニバスに乗り込むイメージには幸福があるようだ。

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 『ルビー・スパークス』の主人公カルヴィンは夢見がちな小説家。演じるのは『リトル・ミス・サンシャイン』では無口な長男役で登場し、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』にも出ていたポール・ダノ。相手役のルビーにはゾーイ・カザン(エリア・カザンのお孫さんだとか)。
 カルヴィンは夢のなかで出会った女性を小説に描く。するとそれが現実に現れて……。という何ともファンタジックな物語。どことなくドラえもんの道具を思わせる古いタイプライターがいい。
 だけど、この映画は男の願望を叶えて終りというわけじゃない。脚本を描いたのが、劇中でルビーを演じるゾーイ・カザンだからだろうか。もしくは監督が男女ふたりのペアだからだろうか。男目線でスタートしながらも、男には手に負えない女性に主導権が移動するし、全体的には男のファンタジーだが、細部が妙に現実的なのだ。
 カルヴィンはルビーを好きなように描くことができる。例えば巨乳にしてみるとか、脱ぎながら歌わせるとか、三遍回ってワンと言わせるとか。だけど結局のところ、ルビーのすべてがカルヴィンの思うままになるわけじゃない。そんなことをすればするほど虚しくなるのだ。ふたりの幸せな同棲生活も長くは続かず、倦怠期がやってくるところは、実生活でも長年のつきあいという主演ふたりの実体験なんじゃないかとも邪推してしまう。
 「夢のなかの女」を自ら演じてしまうゾーイ・カザンはなかなか度胸があるけれど、夢のような存在には見えないところが残念か。陽の光を背に浴びて登場する場面などはかわいいのだが、普段の生活場面での落差が激しいような……。