昨年公開された人気のミュージカル映画。出演はヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイなど。ラッセル・クロウがミュージカルなんて考えてもみなかったけれど、低音が響くいい声なのにはびっくり。

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 ミュージカル映画は好きだが、本物のミュージカルというものはまったく観たことがない。この『レ・ミゼラブル』はその本物のミュージカルをそのままに映画にしたような作品だ。だからミュージカル映画というものに慣れている人は、ちょっと戸惑うのではないのだろうか。ぼくは登場人物がほとんど歌い続けているのに違和感を覚えた。
 よくあるミュージカル映画では、それぞれの登場人物の感情が高まった場面で歌うというのがお約束だ。だから登場人物が歌い始める(あるいは踊り始める)瞬間というのは、映画の演出としては非常に重要な箇所になる。しかし『レ・ミゼラブル』ではのべつ幕なし歌い続けるものだから、メリハリに欠けるような気もした。本物のミュージカルというのはそういうものなのかもしれないが……。

 この『レ・ミゼラブル』に使われている楽曲は有名なものあるが、同じフレーズが別の歌詞で歌われたりと、ひとつひとつの楽曲よりも、クラシックのように全体でひとつの作品を構成するようになっているようだ(ポミュラー・ミュージックで言えばコンセプト・アルバムみたいなものだろうか)。『ムーラン・ルージュ』とか『フットルース』などのミュージカル映画に親しんできたぼくにはちょっと高尚な感じもするが、やはりエボニーヌが歌う「On My Own」には泣かされるし、アカデミー助演女優賞を獲得したアン・ハサウェイの鬼気迫るような歌声にも魅了された(登場シーンは多くはないが、再登場する場面の歌声は天から聴こえてくるようだった)。
 人が歌い出すというのは、普段あまり見られない行動だと思うが、この映画はリアリズムに徹して描かれている。アン・ハサウェイが「夢やぶれて(I Dreamed a Dream)」などは息遣いさえもが聴こえてくる。だがリアリズムに徹するのはいいとしても、監督のトム・フーパーは女優を美しく撮ることに興味がないのではないだろうか? アン・ハサウェイは丸刈りにされるし、あんなに綺麗なアマンダ・セイフライドさえも魅力を減じているような。エボニーヌ役のサマンサ・バークスも一番の見せ場で、雨に打たれて髪はボサボサでみすぼらしくも見え、いかにそういう役回りとはいえちょっとかわいそうな気もした。