『ヌードの夜』『死んでもいい』などの石井隆監督作品。主演にはテレビなどでも人気の壇蜜。その他の出演者は、間宮夕貴、竹中直人、中島ひろ子など。S嬢役で登場する屋敷紘子のインパクトもすごかった。

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 ある日17歳の奈緒子(間宮夕貴)は近所の男に拉致監禁される。男は奈緒子のことを陰ながら想っていて、彼女と一緒に暮らすことを夢見ていたのだ。奈緒子は男に手錠をかけられ、鎖で拘束され、鞭打たれ、レイプされる。一カ月後、隙をついて男を殺害し監禁から逃れた奈緒子だったが、家族との普通の生活は戻って来なかった。
 その後、成長した奈緒子(壇蜜)は、昼間は女医として働きながら、夜にはSMクラブでM嬢となっていた。奈緒子は監禁のときに感じた奇妙な「甘い味」を忘れることができなかったのだ。

 17歳の奈緒子を演じた間宮夕貴も頑張っている(監禁シーンばかりでかわいそうなくらいだが)が、テレビではちょっとエッチな「隣のお姉さん」的なキャラクターの壇蜜は、何もかもさらけ出して熱演している。SMシーンでの壇蜜の白い肌に浮かび上がる腫れは、どう見ても作り物ではないから、撮影も大変なものだったろうと推察される。役者というのは大変な仕事だ。
 『甘い鞭』はいつもの石井隆作品よりも、かなりきわどいシーンが多い。次第にボカシが入るのは当然な感じになってくるし、明るい光が射すなかで四つん這いになった壇蜜を後から舐め回すように撮影しているのは、もはやロマンポルノの域を越えている。監禁とSMクラブという題材からかロングショットはなく、壇蜜という対象に限りなく接近しているのは、監督が彼女に惚れこんだからなのだろうか。

 石井隆の作品とはいえ、今回は原作者が別なので毛色が違う印象もある。石井隆といえば「名美と村木」だと思うのだが、今回の映画では男はなきが如しなのだ。壇蜜=奈緒子という女はいるのだが、女の相手役となる男は登場しないのだ。監禁男や様々な変態もいるのだが、壇蜜=奈緒子と拮抗するような背景を感じさせる男は存在しないのだ。様々な男を通しての女性の自分探しの物語なのだ。だからこそ壇蜜の存在が際立つ作品とも言えるわけで、MからSへの転換で見せる表情はとてもよかったし、さらにその先の世界をも見せてくれる。きわどい壇蜜を見たいならお薦めの1本。

 黴の生えた薄暗い監禁部屋は、男が戻りたかった母親の子宮をイメージしているのだろう。その壁に出来た大きな傷跡はあからさまに女性器だったし、そこは湿り気を帯びている。そんな男の勝手な子宮回帰願望に付き合わされた壇蜜=奈緒子だが、女性にとって子宮回帰はどんな意味を持つのだろうか? 壇蜜=奈緒子とその母親(中島ひろ子)との関係は複雑そうだったが……。