ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した作品。色々とあって精神的に参って、しばらく劇映画から離れていたキム・ギドクの最新作。

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 主人公ガンドの仕事は借金取りだ。しかもガンドのやり方は壮絶で、金を返せない場合には債務者の手を工場の機械で潰したり、死なない程度の高さから飛び降りさせたりする。障害を負わせるほどの怪我をさせ、障害年金から金を引き出そうとするわけだ。そんなだから敵も多い人間なのだが、天涯孤独なガンドの元に母親を名乗る女性が現れる。彼女は一体何者なのか?

 監督のキム・ギドクは、インタビューで「暴力をふるう人に暴力を悪いことだと悟らせるにはどうすればいいかと考えていた」と語っていて、そうした考えがこの映画へと結びついていったわけだけれど、ギドク監督の『弓』とか『うつせみ』などもそうだったが、なかなか奇妙なところへ辿り着いたといった印象。主人公ガンドから見れば一種の改心へ向かう物語だが、一方で母親を名乗る女からするとまた別の物語が現れてくる(ここが泣かせる)。好みは激しく分かれるとは思うが、ぼくはラストでは感動させられた。
 母を名乗る女の存在で、これまでの自分の生き方を変えざるを得なくなるガンド。ふたりは題名にもあるように、哀れみを意味するピエタ像に描かれたような関係にあることになる。つまりガンドはキリストに相当するわけで、債務者から悪魔と罵られるような人物がなぜキリストに擬されるのかというのが見所だ。

 
 撮影監督は学生上がりの素人みたいな人(ライムスター宇多丸曰く)で、ところどころ奇妙なズームなどがあったりしてぎこちない部分も多い。色を極端に配した画調のなかで、母のスカートの赤だけが酷く目立つのだが、廃屋のビルから川を眺める場面では外は露出がオーバーになってほとんど白くなってしまっている。その白い世界を前にした母の血の色のような赤がとても印象的だった。もしかすると露出の計算を間違えたのかもしれないが……。
 ギドクのほかの映画と比べても説明的な部分も多く、割とわかりやすい作品と思える。だからこそヴェネツィア国際映画祭での金獅子賞の獲得になったのだろう。