監督は『害虫』『黄泉がえり』『どろろ』など塩田明彦。実話をもとにしており、テレビでドキュメンタリー「記憶障害の花嫁 最期のほほえみ」として放送されたものの映画化である。
 エンドロールを最後まで観なかった人は知らないかもしれないが、最後には映画のなかで北川景子が演じているご本人の姿も登場する。彼女の背負った運命は過酷なもので、それについては何とも言い様がない。とは言えこの映画では、その後の話も描かれているように希望を感じさせる前向きな映画でもあるし、何だかんだ言っても泣かされる。

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 塩田明彦のことだから、『月光の囁き』『ギプス』のように、主人公に包帯を巻いて松葉杖を突かせてという姿を想像していたのだが、ちょっと違っていた。そんなフェティシズムとは無縁のまっとうな恋愛ものと言ってもいい。恋愛は妨げがあればより一層盛り上がる。その妨げとして、彼女が背負った障害があるのかもしれない。とは言え、前半はそうした障害をあまり感じさせない。彼女は車椅子姿で登場するが、気丈な女性で障害をものともせずに生きているように感じられるからだ。
 後半、障害からの回復の映像が出てくる。身体的な障害とともに記憶障害も負って、長い間意識が戻らなかったどん底の場面は、家庭用ビデオで撮影されている。それなりに衝撃的な半狂乱の場面なども粗い映像でうまく処理していたし(恋愛映画だから夢から醒めてしまうほどの残酷さではまずい)、実話をもとにしたリアル感も増していたと思う。北川景子もかなり熱の入った演技で、観ていても辛いほどだった。
 
 夜のメリーゴーランドの場面はとてもよかったと思う。この映画のような設定でなければ、あんなラブシーンはできないだろう。障害のある彼女を支えた――というか純粋に彼女を愛した男のやさしさは、ほとんどファンタジーとも思えるほどに素晴らしい。それを演じた錦戸亮主演のアイドル映画としてもファンには楽しめるだろうが、塩田監督の映画としてはどこか食い足りないような気もする。最近の作品は、作家性よりも職人に徹しているような……。