人は誰しもそれなりの夢なんてものを抱くのかもしれないが、実際にそれを叶えるものはごく僅か。脚本家を目指して馬車馬のごとく頑張る女と、ビッグマウスばかりでまだ何も成し遂げていない男、この映画はそんなふたりの夢とちょっとした恋心についての物語だ。
 監督の吉田恵輔はとても評判がいいみたいなので、今回は今月レンタル開始となった『ばしゃ馬さんとビッグマウス』と代表作らしい『さんかく』を観てみた。で、感想としては、評判に違わずどちらも素晴らしかった。邦画をつぶさに追いかけているわけではないのだけれど、こんな脚本が書ける人はなかなかいないんじゃないだろうか。

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 ※ 以下、ネタバレもあり。

 とにかく妙にリアルな部分がある。シナリオを口実に異性を口説こうとしてみたり、成功のために監督やプロデューサーに近づくものの弄ばれたりするのは、実際にありそうな気がする(業界に関しては何も知らないけれど)。
 『ばしゃ馬さんとビッグマウス』で一番リアルだったのは、29テイクも撮ったというシーン。麻生久美子演じる主人公・馬淵みち代が「抱いた夢をどうやって終わりにしたらいいかわからない」と弱音を吐いて元彼(岡田義徳)に泣きつくと、元彼は何となくその場の雰囲気でみち代を押し倒す。「色々と面倒だから抱きたいとも思ってないんだけど、こんなに泣かれてしまったし、優しくする方法もよくわからないから今夜は抱いてやろう」というのが男。一方で胸をもみしだかれながらも、最終的には「いいの? 私、また好きになっちゃうよ」と覚悟を求めるのが女。そこで我に返った元彼は、意気消沈して服を脱がそうとしていた手を引っ込めるという……。何だかリアルすぎて恥ずかしいくらい。
 それからどこか事態を客観視しているところもいい。現実を知らず毒舌すぎるのはビッグマウス(安田章大)だけでなく、ばしゃ馬さん・みち代の過去の姿でもあるし、夢を諦めきれないのは元彼も同様だという告白もそうだ。人は自分の立場から他人を非難したりするが、大局から見れば「同じ穴の狢」で、大した違いはないのだ。これは『さんかく』で登場人物3人が、それぞれストーカーまがいの行動をしているのにも似ている。恋する気持ちも夢を追いかける気持ちも、自分だけに備わった特別な感情だと思い込んでいるわけだけれど、それらは結局ユーモラスに相対化されるのだ。深刻になりすぎず所々に笑いを盛り込み、登場人物たちがみんな愛らしく思える。そのあたりのさじ加減が絶妙だった。