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 1970年代のアルゼンチンを舞台にした映画。荒涼とした砂浜を少女が歩いてくる冒頭から、挿入される不協和音が不穏な雰囲気を醸し出している。少女セシリアは母親とふたりきりで海辺の小屋に隠れ住んでいる。この時代のアルゼンチンは軍事政権が支配していたらしく、セシリアの父親は軍に殺され、ふたりは軍の目を避けて生活しているのだ。
 セシリアは学校での作文の授業で軍事政権に対する批判めいたことを記してしまう。母親はそのこと聞くと荷物をまとめて逃げ出そうとするが、結局は先生の自宅まで押しかけて作文を書き直させることになる。
 書き直した作文は軍を礼賛したものだったからセシリアはそれで賞(プライズ)受けることになるのだが、夫を殺された母親としては軍事政権からもらう賞など何の価値もないわけで、授賞式に出たいセシリアとそれに反対する母親の間で小競り合いが繰り返される。

 ラストはあまり説明的なものではないので詳細はよくわからないのだが、風の強い海辺でセシリアの嗚咽が響くシーンが印象に残る。母親との関係で泣いているようにも思えなくもないが、もっとひどいことをも推測させる。その前のシーンで、母親が薬らしきものを飲もうとしているようにも見えるのだが気のせいだろうか?

 少々地味で暗い映画ではあるけれど、セシリア役のパウラ・ガリネッリ・エルツォクをはじめ、子どもたちの演技がとても自然なのがよかった。子どもたちだけではしゃいでいるシーンなどは演技というよりもドキュメンタリーのように見える。セシリアに寄り添う黒い犬の名脇役ぶりも見物だった。
 それにしても政権批判をしたら殺されてしまうような国というのはちょっと恐ろしい。しかもせいぜい40年くらい前のことなのだから。この映画は女性監督パウラ・マルコヴィッチの子どものころを描いた半ば自伝的な作品らしい。ベルリン国際映画祭では、撮影と美術の2部門で銀熊賞芸術貢献賞したとのこと。日本では劇場公開はされなかったが、今月になってDVDが発売された。