『萌の朱雀』『殯の森』河瀬直美監督の最新作。監督本人が最高傑作と自負し、カメラドール/グランプリをすでに獲得しているカンヌ映画祭にも出品されたが、残念ながらパルムドール受賞には至らず……。
 今まで自らの地元の奈良を舞台にした作品が多かった河瀬作品だが、今回は奄美大島を舞台にしており、山深い森の緑ではなく海が印象的に撮られている。最高傑作と自負するだけに今までの集大成といった感もあるこの作品。『殯の森』や『沙羅双樹』などにあったような死生観というものを奄美の自然のなかに表現している。エンターテインメントとは違うから好みは分れるだろうけれど、ぼく自身は十分に堪能した。

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 自転車でのふたり乗りというシーンは『沙羅双樹』が忘れがたい。『沙羅双樹』では奈良の古い町のなかを自転車で走り抜ける場面があり、そのなかで本当にごく自然に主人公の女の子のパンチラが撮られていて、その一瞬がとてもいいのだ(アクシデントなのか狙っているのかはよくわからないが)。
 『2つ目の窓』でも、主人公の杏子と界人は、自転車に乗って島を駆け回る。これはふたりの恋物語ではないけれど、ふたりはいつも一緒にいて、ラストではめでたく初体験を迎える。これは杏子の母親の死や冒頭に登場する刺青男の死と対照的に描かれる生というもののあり方であり、そうした男女の営みが命のつながりというものを紡いでいくということの表現なのだろう。子供が産まれ、成長して次の世代を産み、老いて死んでゆく。個人の生命は失われるかもしれないけれど、そうした命のつながりのなかに何か別のものが続いていく。そんな死生観だ。古臭い考えではあるけれど、未来永劫変らないだろう重要な事実でもある。
 ラストでは杏子と界人が青い海のなかを一糸まとわぬ姿で泳ぎ回る。水中撮影がとても素晴らしい。ちなみにこの映画はWOWOWがスポンサーになっていて、劇場公開に先駆けてWOWOWでも放映されたようだが、この重要な場面はボカシが入ってしまい興ざめだったようだ。もちろん劇場ではそんなことはないからお見逃しなく。

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 この『2つ目の窓』で界人を演じた村上虹郎は、映画のなかでも父親役を演じていた村上淳と歌手・UAの息子さんとのこと(どこか柳楽優弥くん的な雰囲気)。また、杏子を演じた吉永淳の野性味のある眼差しはとても魅力的だった。河瀬映画には『萌の朱雀』でデビューした女優・尾野真千子がいるが、彼女はカンヌ映画祭でグランプリを受賞した『殯の森』でも熱演し(ヌードもほんのちょっとある)、その後はテレビでも活躍する人気者になったが、吉永淳もそういう可能性はあるんじゃないだろうか。