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 記憶探偵という職業は架空のもの。記憶探偵の証言は証拠能力ではDNAよりは劣るけれど、ポリグラフ(嘘発見器)よりは信頼できるという設定。そんな記憶探偵ジョン(マーク・ストロング)がアナ(タイッサ・ファーミガ)という少女の親から依頼を受ける。絶食をしているアナに対する治療の一環として、記憶のなかから絶食の原因を探れというのだ。
 絶食の件はあっさりと解決してしまうのだが、このアナという少女は色々と問題があることがわかってくる。ジョンはアナの記憶を覗くことで、【継父からの虐待】、【教師による性的虐待】、【クラスメイトの殺人未遂事件】といった諸々の問題を発見する。継父は自殺未遂を図り他人を傷つけるアナを施設に監禁しようとし、ジョンはアナを助けるためにアナに協力することになるが……。

 他人の意識のなかに入り込むというのは『インセプション』にあったテーマだ。ただ『インセプション』の場合は夢のなかで、『記憶探偵と鍵のかかった少女』は記憶のなかになる。記憶探偵は現実を記録しているはずの記憶を探ることで、事件の真相をつかもうとする。ただアナは聡明な少女で、特別な能力があると言われているので事は単純ではない。人は耐え難い記憶があれば、それを別のものに変えてしまうことがある。記憶は嘘をつくことがあるのだ。しかし、それは精神的な抑圧によるものであるのが普通だが、アナの場合はそれを意図的に操作している。ジョンが辿るべき記憶は、アナの都合よく変えられてしまうのだから、ジョンは現実を辿るのではなく、アナによる物語を見せられているようなもの。もはや完全に手玉に取られているのだ。

 螺旋階段、時計の音、溢れる水、血とバラの赤、そんな精神分析的な表象に溢れていてなかなか盛り上がる。ただラストは思いのほか予想通りの展開で、そこがいまひとつ物足りないところだろうか。最後に登場する別の記憶探偵のシルエットは、『サイコ』の主人公の母親のシルエットに似ている(オカッパ風の髪型)。精神分析というのは記憶を探るものだし、ヒッチコックの作品には精神分析で解釈されるものも多いし、この映画もかなり意識しているのだろうと思う。
 アナを演じたタイッサ・ファーミガは『ブリングリング』に出ていた女の子。バラの花が似合う女なんてそうはいないけれど、なかなかはまっている。記憶探偵役のマーク・ストロングも渋い。