以前『CHLOE/クロエ』という作品も取り上げた、アトム・エゴヤン監督の最新作。
 題材としては実在の事件をもとにしている。男児たちが惨殺されたこの事件は、その事件以上に、犯人として逮捕された「ウェスト・メンフィス3」と呼ばれる3人が、実は冤罪であったとして話題になったらしい。

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 少年たちが川のなかから死体として発見される。足首と手を結ばれた丸裸の姿は痛ましい。しかも少年たちのひとりは去勢されてもいる。警察はこの猟奇的な事件を、悪魔崇拝の儀式によるものだと考えて捜査を進める。そして犯人は意外に簡単に見つかる。ヘビメタを愛し、オカルトが好きな少年たちが逮捕されるのだ。私立探偵のロン・ラックス(コリン・ファース)は事件に疑問を抱き、独自に調査を始め弁護士に協力して冤罪で逮捕された少年を助けようとする。

 それにしてもアメリカの警察や司法がこれほど杜撰なのかと驚かされるような部分もあった。ウェスト・メンフィスという場所が結構な田舎で、保守的な場所なんだろうとは思うけれど、黒い服を着てうるさい音楽を聴いているからといった理由で明確な証拠もないのに逮捕されてしまうとは……。
 事件の裏に本当の悪魔崇拝者がいるのかどうかはわからない。劇中、悪魔に魂を売ったという「クロスロード伝説」で知られる、ロバート・ジョンソンの写真が登場するのは意味ありげではある。とにかく実際に少年を殺害した者が隠れていることは確かなわけで、「ウェスト・メンフィス3」と呼ばれた少年たちは、隠れ蓑として使われた犠牲者だったわけだ。
 ちなみに彼らが逮捕されることになる証言をした少年とその母親は、単に目立ちたいだけだったという話もあるようだ(このあたりは対談の動画から)。また、母親が悪魔崇拝者たちの儀式を見たとして語っているときに流されているのは『悪魔の追跡』という映画であり、彼女はこれをもとに儀式を現実に見たかのように語っていたわけで、意図はよくわからない。単に目立ちたいだけでそんなことをする人の精神状態は普通の人にはちょっと理解の範疇を超えている。
 実は、この事件をもとにしたドキュメンタリーは、ほかにいくつもあるとのこと(多分英語版のみ)。『パラダイス・ロスト』シリーズは3作目まで登場しているし、ピーター・ジャクソンが製作した『ウエスト・オブ・メンフィス 自由への闘い』という作品もあるらしい。どちらにしても事件が決着するわけではないようだ。

 エゴヤン作品は『エキゾチカ』がとても好きだし、ほかにもカンヌでグランプリを受賞した『スイート ヒアアフター』もよかった。これらの作品では、すでに終わった事件があり、その事件のあった過去と現在の間を行き来しつつ物語が進み、最後に別の何かが浮かび上がってくるという複雑な構成だった。この『デビルズ・ノット』はほとんど真っ直ぐに裁判のあらましを追って行くだけだし、最後になっても被害者の母親パム(リース・ウィザースプーン)が言うように「何もわからない」まま放り出されてしまう(あやしい人物については、字幕で知らされるけれど)。現実の事件が未解決だけに仕方がないのかもしれないけれど、とにかくもやもや感は半端ない。