サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

2013年11月

『愛さえあれば』 スサンネ・ビア監督が描く中年女性のありのままの姿

 スサンネ・ビア監督の映画は、いつも結構シビアな問題を扱って、観ている人を倫理的な問題に巻き込んでいくような印象がある。たとえば『ある愛の風景』は悲惨な戦争から帰還した兵士が、平和な日常へ戻ってくることで起きるいざこざが描かれていた。この映画はその問題提起の鋭さと後半のサイコ・サスペンスなタッチがよかったのか、ハリウッドでもリメイクされた(『マイ・ブラザー』がリメイク作品だが、残念ながら未見)。
 今回の『愛さえあれば』も、乳癌にかかって夫には浮気された中年女性というところはシビアだが、シリアスさは幾分か薄れて、大人の恋愛ものとして楽しめる内容になっている。

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 ちなみに恋のお相手は元007のピアース・ブロスナンで、ちょっと歳を重ねた感じはするが、相変わらずの二枚目ぶりを見せている。この大人の恋愛のきっかけとして登場するその子どもたちのふたりも、初々しくてよかった。金髪碧眼で透き通るような白肌という、いかにも北欧美女といった感じのモリー・ブリキスト・エゲリンドが華麗だった(ちょっとユマ・サーマンあたりに似ている)。

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 『愛さえあれば』は、宣伝ではコメディといった印象で売られている。しかし、ほかの作品よりはユーモアはあるけれど、喜劇という枠に囚われているわけではないし、ラブ・ストーリーというには現実的だ。何と言っても、主役の中年女性(トリーヌ・ディルホム)は薬の副作用で丸坊主だし、ロマンチックに浸るにはちょっと夢がなさすぎるからだ。このあたりの主人公の描き方は、女性監督ならではという感じがする。それでも坊主頭に金髪ストレートのウィッグをつけて頑張る姿は微笑ましい。冴えない中年女性だった主人公が最後にはちょっと素敵な存在に見えてくる。


『眼には眼を』 名作映画のDVD化をさらに求む

 アンドレ・カイヤット監督の1957年の作品。
 これまで観る機会がなかった作品だが、11月6日にDVDが登場したものらしい。販売はないのかもしれないが、うちの近くのTSUTAYAには置いてあった。

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 まだまだ若かった頃、周囲には映画に詳しい人も居ず、インターネットなど遠い未来の話で、どんな映画がいい映画なのか、うぶなぼくには皆目見当も付かなかった。そんな頃、文藝春秋社から『大アンケートによる洋画ベスト150』という文庫本が登場した。手元にある初版は1988年となっている。今でも折にふれてページをめくることがある。教科書的なランキングだとは思うが、初心者にはとても参考になった。
 このシリーズはいくつも出ているが、そのシリーズの『ミステリーサスペンス洋画ベスト150』のなかに、この『眼には眼を』も登場している。ちなみに、『ミステリーサスペンス洋画ベスト150』では、第1位が『第三の男』、第2位が『恐怖の報酬』、第3位『太陽がいっぱい』となっている。ヒッチコックは150位のなかに17本の作品が入っているから、このジャンルでのヒッチコックの人気がよくわかる。
 そして『眼には眼を』は、23位に入っている。こういう作品は、観たいと思っていても映画館にはかからないし、壊れかけのビデオデッキでは心配というわけで、名作のDVD化はもっと進んでほしいものだと思う。ランキングに登場しているような評価の高い作品でも、まだまだ観ていないものも多いからだ。多分、今回のDVD化に当たっては町山智浩『トラウマ映画館』の尽力があったものと思われる。そういう意味では町山氏に感謝しなければならないのかもしれない。

 物語はふたりの男の間の復讐劇だ。とにかくワン・イシューだけで最後まで押し切る手腕はすごい。粗を探せば、ライティングなんかで奇妙なシーンがある(荒野のシーンなのに影が何方向にも出来ている)けれど、やはりラストの驚きでそんなのは吹き飛んでしまうだろう。久しぶりにゾクッとさせられる場面だった。

『セデック・バレ』 霧社事件という史実を描く台湾映画

 エドワード・ヤンに師事していたというウェイ・ダーションの監督作品。日本人の出演者としては、安藤政信河原さぶ木村祐一などが登場する。

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 冒頭から圧倒的なテンションで始まる。部族の狩りの場面かと思いきや、突然、部族間の戦いが始まる。勝った側は敵の首を刈るのだから普通のテンションであるはずがない。そんな部族間抗争の興奮も冷めやらぬうちに日本軍の進攻が続き、外部からの侵略者との戦いも始まる。のちに部族の頭目となるモーナ・ルダオも、圧倒的な勢力を誇る日本軍の前には屈服せざるを得ない。モーナ・ルダオは30年以上耐え抜くが、霧社事件という抗日暴動を起こす。これは台湾原住民の悲劇的な歴史を描いた映画なのだ。

 台湾映画を観る機会はそれほどないが、たとえばホウ・シャオシェンの映画なら日本はどちらかと言えば好意的に描かれていたような……。この『セデック・バレ』の日本の扱いはそれとは異なる。反日映画と簡単に決めつけることはできないが、「日本統治時代はよかった」などと言うこともできないだろう。
 第1部は「太陽旗」、第2部は「虹の橋」と題されている。それぞれ日本の国旗と、台湾原住民の考えるユートピアへの架け橋を指している。彼らは立派な戦士となることが「セデック・バレ(真の人)」となることであり、そうすれば虹の橋を渡って豊かな狩り場のある世界に行くことができると考えているのだ。
 ほとんど男ばかりの映画である。女は男が戦士になるために身を尽くす。日本軍との戦いに備えて足手まといにならないようにと、女たちと子どもたちが自死する場面があるが、これも史実のようだ。「霧社事件」とネットで検索すれば、映画に描かれたような陰惨な写真も目にすることができる。あまりにも悲惨な出来事で目を覆うばかりだが、実際に80年ほど前に台湾で起きていた事態なのだ。日本人としても知っておかなければいけない事実だろう。
 部族たちを演じるのは、映画に描かれた彼らの子孫とのこと。壮年期のモーナ・ルダオ(リン・チンタイ)には凄みがあるし、青年期(ダーチン)には野生味と躍動感に溢れている。とにかく皆いい表情をしているのだ。台湾出身で母親が原住民だというビビアン・スーも出演している。
 緑のあざやかな色が映える映像。そこに血の色のような赤に近い色の桜が咲く。そんな美しい土地を舞台に戦士として散っていった台湾原住民の姿に、日本兵たちはすでに失われた武士の姿を見出す。CGがちょっと拙いのが惜しいけれど、合計4時間半以上の長尺も飽きさせない。




『恋するリベラーチェ』 マイケル・ダグラスとマット・デイモンの熱演に拍手

 『サイド・エフェクト』を最後に引退の表明したスティーブン・ソダーバーグが撮ったテレビドラマ。日本では映画館での公開となった。アメリカではエミー賞において作品賞、監督賞、主演男優賞(マイケル・ダグラス)などを受賞した。

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 リベラーチェとはアメリカに実在したピアニストにしてエンターテイナー。派手なステージ衣装はプレスリーやエルトン・ジョンにも影響を与えたのだとか。リベラーチェはゲイであり、エイズで死ぬことになるが、最後までそのことを公にはしなかった。映画の最後で彼は「何事も度が過ぎると素晴らしい」みたいなことを言って去っていく。これ以上ないほどのド派手な衣装と徹底的なエンターテインメント、私生活では何人もの若い男をはべらせてハーレムを築く、最後の言葉はリベラーチェの生き方そのものみたいだった。

 リベラーチェを演じたマイケル・ダグラスは、きらびやかなステージを華麗にこなし、一方で禿げ頭(メイクアップらしい)で脂肪のついた老体をさらす熱演ぶり。恋人であり、秘書であり、息子でもあるような、スコット・ソーソンを演じたマット・デイモンは、金髪を伸ばして妙にかわいらしく見える。
 また脇役だが久しぶりで懐かしいのがロブ・ロウ。胡散臭い整形外科医を演じているが、この人物はフェイスリフトで顔が引きつっているという設定らしい。出てきただけで異様な雰囲気で、能面のように顔の形状は変わらないのだが、微妙な眉の動きだけ感情を表している。演技というよりは顔芸だが、一見の価値あり。

 リベラーチェとソーソンの関係は、純愛というよりはどちらとも打算的だ。リベラーチェは若き金髪のアドニスを手に入れたいと思い、孤児であるソーソンは金や豊かな生活を求めるとともに父親の姿も重ねている。打算的だから一度手に入れてしまえば窮屈になるわけで、結局関係は破綻して行くことになるが、そのなかには一抹の真実もあったものとして描かれている(現実はもっとどろどろしていたようだが……)。ラストでソーソンが思い描く幻想が美しい。いかにも作り物のきらびやかな世界で、メイクと派手な衣装で着飾ったリベラーチェが天に昇っていくように思えた。
 ソダーバーグの演出は正攻法で、奇抜なところはないが、ふたりの関係をじっくりと描いていく。かつての愛人を蹴散らしてリベラーチェの愛人に納まったソーソンだが、結局は自分も同じような憂き目に遭うことになる。予想がつく展開ではあるが、追い出される側になっていくソーソンの立場はやはり切ない。


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