サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

2014年03月

『Miss ZOMBIE』 富樫真の狂気はやっぱり見物

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 ゾンビ映画にそれほどの執着心もなく、そのトレンドについてもほとんど知らないのだが、監督がSABUだということでちょっとレンタルしてみた。SABU作品は初期の作品は観ているのだけれど、実は久しぶりの鑑賞。
 タイトルにあるように、主役はゾンビである。ある邸宅で雇われているという妙な設定。しかも、そのゾンビが元は若い女性だからといって、邸宅の主人やその他の男たちは、彼女を性的対象にもしてしまう。
 『Miss ZOMBIE』でのゾンビは人間に飼い馴らされたようで、人間と共存している存在。ゾンビとは言え、限りなく人間らしいのだ。死にかけた人間もゾンビ化すれば、生き永らえられるというのもユニーク。ゾンビ化が死を逃れるための唯一の方法としてあるという……。
 主役のゾンビを演じるのは小松彩夏。実際には、かわいらしい女の子。今回はゾンビメイクということで、顔に傷をつけられ、目は生気のない状態でちょっとかわいそうな扱い。後半の回想シーンでは、ちょっとだけ素顔を見せてくれる。

 ※ 以下、ネタバレもあり。

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 この映画でのゾンビは妙に人間らしいのだが、逆に恐ろしいのが狂気に陥った母親。息子はゾンビ化し、夫はゾンビ娘に入れ込んでいるとなれば致し方ないかも。ゾンビより人間が恐ろしいというのがおもしろい。母親役には、園子温監督の『恋の罪』でもハイテンションの演技を見せた富樫真。そのすごさはモンスター級だった。この映画でも日常的な場面での演技は過剰だと思うけれど、狂ってからはやっぱり魅せてくれる。全体的には淡々と進む『Miss ZOMBIE』で、一番の胸踊るシーンは、狂った富樫真が銃を持って邸宅から飛び出してくるところ。人間とは思えないような走り方で唖然させられた。


『愛の渦』 乱交パーティでの悲喜こもごも

 最近では『その夜の侍』とか『ジ、エクストリーム、スキヤキ』あたりも演劇界の人材が作った映画だったが、この『愛の渦』も劇団「ポツドール」の三浦大輔が、岸田國士戯曲賞を受賞した戯曲を自身で監督した映画だ。出演には池松壮亮、門脇麦、新井浩文、柄本時生、窪塚洋介など。

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 “着衣時間はわずか18分半”という惹句に騙されるつもりで劇場に行ってみると、やはり騙された感はあるのだけれど、それはそれとして、それほどエロくはなくても映画としては楽しめた。服は当然脱ぐわけだけれど、バスタオルを羽織っているシーンのほうが長く、セックスシーンもあるけれど、ボカシが必要なほどではないし、「乱交パーティ」と言っても、そんなにグロい感じもない。女性客が結構多かったのも、「乱交パーティ」というきわどい題材を扱いながらも、到底ついていけないほど突き抜けてないのがよかったのかもしれない。

 ※ 以下、ネタバレも含みます。

 「乱交パーティ」だから当然、やりたい人たちが集まってくるわけで、どんな酒池肉林の地獄絵図のような場面が展開するのかと期待と不安のまま画面を見守っていると、最初のうちは日本人的な場の空気に支配された気まずい時間が続く。じりじりした感じで男女それぞれが相手を見付けていくところは、「乱交パーティ」とは言え、一部の変態だけの遠い世界の話ではないという印象。
 けれども一度はセックスをしてしまうと、急に緊張が解けたように距離感が縮まるようだ。そうなると次第に本性も現れる。保母さんはスケベだとか、実直に見えるサラリーマンがゲスだとか、かわいいOLにはちょっと難点があったり、大人しい女子大生がはげしいあえぎ声を聞かせたりと、意外な面も見えてくるのがおもしろい。裸になって朝まで交われば、通常は見えないようなことも見えてくるわけで、良いところも悪いところもそれなりに明らかになる部分もあり、最後は「乱交パーティ」自体にちょっとした一体感もあったような……。
 物語としては、地味な女子大生(門脇麦)と無口なニート(池松壮亮)との関係に軸があるわけだけれど、それにしても彼ら(彼女ら)は、何故そんなにも性欲に突き動かされているのか? そのあたりはわからないままなのだけれど、熱心なことに人を替えてまで、朝まで何回も闘いを交えるところなど、ちょっと滑稽なくらいだった。

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 地味な女子大生を演じた門脇麦は、東京ガスの「ガスの仮面」というCMに出ている女の子。調べるとチョコラBBなんかのCMにも出ているらしく、この映画とは全然印象が違う。今回は眼鏡におかっぱという暗い感じだったが、大人しいわりに性欲は強いという役柄で、全裸できわどい場面にも挑戦していて頑張っている。


『ラブレース』 アマンダ・セイフライドが演じるポルノ女優の生涯

 『ディープ・スロート』というポルノ映画の主演女優リンダ・ラブレースについての映画。主演は『レ・ミゼラブル』『クロエ』などのアマンダ・セイフライド。ポルノ女優を演じるということもあってなかなかきわどいシーンもあるし、豊かなバストも惜しげもなく披露していて、エロい視点から見ても十二分に楽しめる作品。しかし、ぼくが観た映画館では観客には女性も多かったし、全体的に見れば女性の辛い人生を真摯に描いた作品だったと思う。
 ほかの出演陣はシャロン・ストーン、ジェームズ・フランコ、クロエ・セヴィニーなど。『ターミネーター2』のT‐1000役のロバート・パトリックもお父さん役で登場していて懐かしかった。

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※ ネタバレあり。

 『ディープ・スロート』というポルノ映画があることくらいは知っていたが、実際に観たことはないし、それが社会現象となっていたこともよくは知らなかったのだが、この映画ではそんな当時を知らない人が観てもわかるように作られている。『ディープ・スロート』はコメディタッチのポルノらしく、そこで披露されるリンダの舌技がすごかったということは周囲の驚きでわかる。
 『ラブレース』は二部構成のようになっている。前半はリンダがポルノ女優としてスターになる成功物語となっていて、70年代のポップミュージックに合わせ、リンダが勝ち得た名声を描く。ポルノ映画製作の胡散臭い感じの面々なんかを見ると『ブギーナイツ』のような雰囲気だが、そこから後半になると映画の雰囲気がガラリと変る。
 ポップミュージックは鳴りを潜め、クラシックが静かに流れ出し、場面は一度見たはずの結婚初夜のシーンまで戻っている。実は前半で描かれることは、世間的なリンダのイメージでしかなく、そこでは語られていない部分があり、後半ではそうした語られなかった部分が辿られていくのだ。
 前半を見るとリンダがポルノに出るのに際し、何の葛藤もないというのが不思議だったが、それは意図的なもので、世間的には易々とスターになったように見えているわけだが、その裏面では誰にも言えないことを抱えていたということが判明する。チラシのイメージのようなポップな映画かと思うと、結構ヘビーな題材なので驚くかもしれないけれど、とりあえずアマンダ・セイフライドは出ずっぱりだからアマンダファンはやはり見逃せない作品。



ロバート・アルドリッチ 『合衆国最後の日』 もしかしたら人ごとではないのかも……

 1977年に公開されたロバート・アルドリッチ監督作品。出演にはバート・ランカスター、リチャード・ウィドマーク、チャールズ・ダーニング、バート・ヤングなど男っぽい面々。

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 モンタナ州でミサイル基地が襲撃に遭い、核を積んだミサイル9基がテロリストたちの手に渡る。実はこのテロリストたちの真の目的は、アメリカ合衆国の機密情報を暴露することにあり、ミサイル施設の占拠は単に手段に過ぎなかった。彼らは大統領と直接交渉することに成功し、大統領を人質にして目的を達成しようとするが……。

 『キッスで殺せ』でも核の恐怖を描いたアルドリッチ監督。あちらでは具体的な核戦争というよりは、それを仄めかすことで恐怖を演出していたように記憶しているが、『合衆国最後の日』ではもっと直接的にミサイル発射とその阻止という、手に汗握る攻防戦を展開している。アルドリッチ監督はテロリストたちと大統領たちをマルチ画面で捉えている。国のための正義と信じて政府を脅す側と、それに屈せず国の体裁を守らんとする側、両者の行動や表情を同時に捉えることで、多くの情報を瞬時に観客に伝えていて見応えがある。
 ここで描かれる合衆国の秘密は、それほど驚くべきものではないかもしれない。アメリカならやりそうだし、多分どこの国でも似たようなものだろう。それでもラストの展開には驚かされる。国を守るためにはそこまで犠牲にされるのかという……。もちろん途中でそうした結末になることは予測されているし、現実にそうしたこともあるのかもしれないが、とにかくシビアなラストだった。
 それにしても、特定秘密保護法なんかが国会を通過した日本でも、この映画に描かれていることは人ごとではない気がする。途中で出てくる施設内のトラップにはサリンが使われていて、ここでもちょっと驚いた。



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