サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

2014年08月

『ペコロスの母に会いに行く』 介護問題を扱った楽しい映画

 監督は『時代屋の女房』『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』などの森崎東。出演は岩松了、赤木春恵、原田貴和子、加瀬亮など。テレビではお馴染みの赤木春恵は意外にも映画は初主演とのこと。2013年のキネマ旬報ベスト・テン日本映画ベスト・ワン作品。原作は4コマ漫画で、先月DVD化された。

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 長崎を舞台にした人情喜劇。ペコロスという小さな玉ねぎに似ているハゲちゃびんのゆういち(岩松了)は、ボケてきた母親みつえ(赤木春恵)を抱えた男やもめで、息子も戻ってきたけれど、互いに仕事もあるしといった高齢化社会にはごく普通にあるであろう問題をコメディタッチで描いていく。現実はもっと過酷な状況なのかもしれないが、それを「ボケるとも悪か事ばかりじゃなかかもしれん」と考える前向きさには好感が持てる。

 出演陣が豪華で、いろんなタレントも登場するので、そのあたりも楽しい。宇崎竜童、温水洋一、サヘル・ローズ、志茂田景樹あたりも顔を出すし、周防映画から迷い込んだような竹中直人のカツラネタはやはりおかしい。
 出番は少なくても印象的なのが原田知世。笑うと前歯がかわいらしいのは相変わらずで、今でもとても若々しい(たしかぼくもよりも年上なはずなのだが)。長崎を舞台にした映画で、彼女の役は原爆の影響で早死する主人公の友達だったから、被爆2世という原田知世にとっては思い入れのある役なのかもしれない(みつえの若い頃を演じている実姉・原田貴和子もそうだろう)。

 現在ではボケてしまったみつえは、ときどきどこか意識が飛んだように過去の思い出に浸ってしまうことがある。そんなときに思い出されるのは原爆が投下された子供の頃や、アル中で暴力的な旦那と過ごした貧しい戦後だったりもするが、そうした過去も懐かしくなってくるようだ。浸れるほど波瀾万丈の過去があるというのはちょっと羨ましい気もしないでもなくて、平和な日本に暮らせるのはありがたいことだけれど、後になって思い出しても浸れるほどの物語もなさそうな世代の人間にとっては複雑な気分でもある。そんなことを思わせる、きわめて真っ当で見ごたえのある映画だった。





『プロミスト・ランド』 ガス・ヴァン・サントとマット・デイモンの3度目のタッグ

 シェールガス革命なんてことも言われるようで、これまでのエネルギーの代わりになることも期待されているエネルギーがシェールガスらしい。しかし実際にそれが革命的でクリーンなエネルギーなのかは定かではないとも言われる。そんな環境問題に取り組んだ作品。
 マット・デイモン演じるスティーヴは大手エネルギー会社の幹部候補で、マッキンリーという田舎町に土地の買占めにやってくる。しかし環境汚染の観点から反対する住民もいて、賛否の投票がなされることになる。その後、環境保護団体のダスティン(ジョン・クラシンスキー)も町に現れ、ネガティブキャンペーンを始め、反対派の勢力が増してくるが……。

 この映画はマット・デイモンが脚本を書いて、ガス・ヴァン・サントが監督した作品だ。そうなるとどうしてもマット・デイモンが脚本と主演を担当し、ガス・ヴァン・サントが監督した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』を思い出す。ガス・ヴァン・サント作品は『ジェリー』(この作品もマットの主演・脚本)や『エレファント』のようなよくわからない芸術風な作品と、ウェル・メイドで誰にもわかりやすい作品の系統があるが、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』は後者の代表だろう。だから観客としてはそれらしい感動作を期待してしまうのだが、そうなるとちょっとおさまりがよくない気もした。
 スティーヴは悪い青年ではないのだが、このご時勢ではあまり歓迎されるような人物ではない。「いい人だと思うけど、仕事がね」などと言われている。酔っ払って本音が出た際には、「もう死にかけている町なのに、何もしようとしない。シェールガスに賭ければたんまりと金が手に入るのに……」みたいなことを言い、地元の若者に殴られる。アメリカの良心みたいなイメージすらあるマット・デイモンがこんなことを言い出すものだから、ちょっと混乱し、どこに着地点を見出すのか予想がつかなかったのだ。

 ※ 以下、ネタバレもあり。

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 結論から言えば、スティーヴは「ぼくは悪いやつじゃない」と繰り返し言っていたように、やはりマット・デイモンは悪役ではなかったようだ。最後の最後で善悪がひっくり返るからだ。『グッド・ウィル・ハンティング』ではロビン・ウィリアムズ演じる善人のカウンセラーによって、「君は悪くない」と諭されて真実に辿り着くとすれば、『プロミスト・ランド』はその逆で自分が加担していた悪に気づくことで真実に辿り着くといった感じかもしれない。
 ただ、『プロミスト・ランド』における善悪はあまりはっきりとしたものではない。環境汚染はあるのかもしれないが、相棒スー(フランシス・マクドーマンド)のように家族を抱えていればそう言ってもいられないからだ。結局のところ、スティーヴは仕事を投げ出してしまうような形になったが、彼の会社でなくとも別の会社がその町を目指してやってくるだろうし、問題解決になったのかはよくわからない。複雑な問題を複雑なまま示しているから現実と同様あまりすっきりとはしないようだ。環境に対する問題提起としては有効だとは思うのだが……。




『ニシノユキヒコの恋と冒険』 ボルサリーノ・ハットを被った幽霊

 『人のセックスを笑うな』井口奈己監督の作品。タイトル・ロール=ニシノユキヒコには竹野内豊。本日、8月20日からDVDが発売となっている。

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 この映画の雰囲気を象徴しているのは、ニシノユキヒコの葬式でかかる音楽なんだろう。調子はずれでグダグダした感じで、どことなくコミカルな印象もある。だいたい白いボルサリーノ・ハットで登場する幽霊というのも滅多にないんじゃないだろうか。
 原作ではニシノユキヒコの過去なんかにも触れられていて、女の子たちはニシノに惚れてはいてもどこかで憐れんでもいるといった感じもあったのだが、映画版のニシノはもっと軽い存在で、その分女の子たちの願望を叶えてしまう幻想的な存在になっている。ニシノを演じた竹野内豊は嫌味もなく、役になりきっていて女性の観客ならばそんなニシノの姿に惚れてしまうかもしれない。
 一方で、ニシノに惚れる7人の女優さんたちも豪華だった。麻生久美子、中村ゆりか、本田翼、尾野真千子、阿川佐和子、成海璃子、木村文乃などそれぞれに個性的で楽しめる。個人的には深みのなさそうな本田翼が好みだが、ニシノと倉庫で何かいいことをしてきたらしき尾野真千子の表情もよかった。
 
 長回しの効果は映画によって様々なのだろうが、井口奈己監督の意図はカメラの前に立たされたふたりの自然な行為を引き出すためのもののようだ。雑誌のインタビューで監督が話していたことには、尾野真千子と竹野内豊のラブシーンでは、台詞もなくイチャイチャするように指示を出し、カットをせずに延々と長回しをしていると、ふたりは予定にはなかったのにキスをしてしまったとのこと。役柄になりきったふたりが誰もいない会社でイチャつくとなれば、そうしたことは自然とも言えるけれど、監督のカットの声はいつまでもかからず、台詞も決まっていない場を持たすために追い詰められた窮余の策としてそんなことになってしまうのだろうとも思う。そのあたりの自然な照れが見え隠れする感じは独特だと思う。中村ゆりかが涙をこぼすシーンもじっくりと見せているが、あれは役柄というより演技者本人が無理に涙を流すところにも見える。そんな意味でこの監督にはサディスティックなところがあるようだ。





『永遠の0』 大ヒットした問題作?

 昨年大ヒットした日本映画。先月、DVDがレンタル開始となった。

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 大ヒットしたにも関わらず、特攻隊賛美などと言われ批判も多かった作品。「戦争」というのはテーマとして今でも論議を呼ぶ、なかなか難しいものなのだろうと思う。原作者自身もこんなことを言っているらしい。
「『永遠の0』はつくづく可哀想な作品と思う。文学好きからはラノベとバカにされ、軍事オタクからはパクリと言われ、右翼からは軍の上層部批判を怒られ、左翼からは戦争賛美と非難され、宮崎駿監督からは捏造となじられ、自虐思想の人たちからは、作者がネトウヨ認定される。まさに全方向から集中砲火」

 ぼく自身は原作を読んでいないが、映画を観て戦争や特攻隊が賛美されているとは思えなかった(微妙な部分はあるが)。日本文化論でよく言われる「空気の支配」に対する反抗者という意味で、宮部久蔵(岡田准一)の人物像は泣かせる部分も多かった。アホだけれど声のデカイやつの主張が通って、日本が間違った方向へと導かれたということがあるとすれば、彼の選択もやむを得ないような気もするからだ(もちろん味方を見捨てるような行動は批判されるだろうけれど)。
 ただ、いただけないのは原作者のほかの場所での政治的な発言。かなり偏った発言を繰り返していて、自分の本の信憑性すら下げてしまっているようにも思える。日本の再軍備を主張するような言動は、『永遠の0』という本にはそんなことが書かれていないとしても勘違いされることがオチだろうと思う。

 それとは別にして映画版のラストの描き方はひどいと思う。登場人物が走馬灯のように再登場し、さらに現代の街なかにいる佐伯健太郎(三浦春馬)の目の前を、祖父・宮部久蔵の操縦する零戦がかすめ飛んでいくという……。端的にダサかった。





新作『はなしかわって』とハル・ハートリー監督の過去作品

 その昔『シンプルメン』『トラスト・ミー』が公開されたとき、自分の周囲の映画ファンに薦められて名画座で観た。それなりに人気のあったハル・ハートリーだが最近の作品は、日本では劇場公開されずに終わることも多かったようだ。最新作の『はなしかわって』は久しぶりに劇場公開され(先月DVD化)、DVD化されていなかった過去作品も一気に登場した。



 『シンプルメン』は20年ぶりくらいに久しぶりに観た。しかし覚えているのは女の子が癲癇の発作でひっくり返るところと、ソニック・ユースの音楽に合わせて踊る奇妙なシーンだけだった。このダンスシーンは今観るとゴダール『はなればなれに』の影響を受けていると思われるのだが、当時は『はなればなれに』自体が日本では限定的にしか公開されていなかったわけで、どんなふうに受け止められていたんだろうか? まあそんなことは抜きに楽しいシーンだと思う。

 新作の『はなしかわって』は約60分の中編で、特別なことは何も起きない作品だが、主人公がニューヨークの街を歩き回りつつ、かつての作品よりもとてもテンポよく話が展開していく。普段見ないようなニューヨークの姿が垣間見られる。

 『ブック・オブ・ライフ』は新作ではないけれど、観てなかったので一緒に借りてみた。1999年12月31日の世紀末を描いた作品で、最初のほうで終末論のイメージとして、ニューヨークの空を飛行機が飛んでいる場面がある。この映画が撮られたのは911テロが起きる前なわけで、ちょっと驚いた。ラストではニューヨークに聳えるツインタワーの姿が捉えられている。

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 個人的に一番好みなのは『アンビリーバブル・トゥルース』(かつては『ニューヨーク・ラブストーリー』という題だったとのこと)。この作品はハル・ハートリーの処女作で、のちの作品にも登場する色々な要素が詰まっているし、ちょっと説明するのが難しいとぼけた味わいのある作品だと思う。
 この映画の主役のエイドリアン・シェリーがとてもよかった。エイドリアン・シェリーは『トラスト・ミー』にも出ていた人だが、『トラスト・ミー』では途中からメガネっ娘になってしまうのだが、こちらは頭の悪そうなアメリカン・ガール的なところがかわいらしかった。
 今回『アンビリーバブル・トゥルース』を観たあとに初めて知ったことだが、エイドリアン・シェリーは映画監督としても『ウェイトレス おいしい人生のつくりかた』を撮るなど頑張っていたようだが、実生活でトラブルに巻き込まれて殺されてしまったのだとか……。何とも残念なことだ。








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