サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

2015年01月

『LAST LOVE/愛人』 堕ちてゆくことの怖さと甘美さ

 以前に取り上げた『マリアの乳房』と同じく、「ラヴストーリーズ」というシリーズの1本。

 この映画の主調音となっているカッコいいギターの音は、ジャズギタリストの伊藤茂利とのこと。

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 人を信じないという元ギタリスト・岩田(火野正平)は、音楽への夢をあきらめ、住み込みのマンション管理人として生活していた。そこで、そのマンションに住む愛人業(つまりは囲われ者)の女・ユミ(桜木梨奈)と出会ってしまう。

 

 ユミをファム・ファタールと呼べるのかどうかはわからないけれど、ユミは男を転がすことに慣れているし、それは生来のものに見える。ただ、男を貶めようとしてするのではなく、単に独りではいられない寂しい女なのかもしれない。

 せっかく管理人の仕事に就いて、平穏な生活を送ろうとしていた岩田も、ユミによってその平穏さを乱されていく。性欲の亢進が芸術的なひらめきを生んだのか、ユミに会うことであきらめていた音楽への想いも戻ってくる。ユミはダンサーでもあり、ふたりはギター弾きとダンサーとして街を巡る流浪の生活をすることになる。

 

 「ラヴストーリーズ」というシリーズは、昔のロマンポルノのような形態を目指しているのだろうか? 監督と脚本の石川均はピンク映画出身らしいし、エロシーンを物語に絡ませておけば、あとは比較的自由にやっているように推察される。このLAST LOVE/愛人』も予算はかなり限られている印象だけれど、男と女が堕ちてゆくというロマンポルノ的な王道(?)を描いていて魅せられた。

 ユミを演じた桜木梨奈はキレた感じの演技がはまっていた。ユミは双極性障害(いわゆる躁鬱病)であり、その先には統合失調症(いわゆる分裂病)が予想されている。高笑いしすぎて過呼吸のようになって卒倒するなんて、かなりのオーバーアクトとも見えるけれど、そういう類いの女は現実にいるような気がする。

 桜木梨奈のやや小ぶりな胸はとてもきれいだったし、大きくてうつろな瞳も役柄に合っていた。男が惹かれるのはわからなくもないのだが、一番厄介な種類の女だとも思う。

 最後は意外とあっさりとしているが、暗い道行きを予感させるようで、暗澹とした気持ちになった。精神病院での男女を描いていた『リリス』と同じように……。

『BAD FILM』 園子温の幻のフィルムがDVDに

 園子温監督が1995年に撮影しながらも未完だった作品。今回、初期作品集に合わせてようやく完成させたものとのこと。本編161分の大作だ。

 製作は1995年あたりだと言うから、園監督がメジャーデビューする前で、まだ自主制作のような泥臭い感じを残している。とは言え、そのころに園が主催していた「東京ガガガ」というパフォーマー集団(?)が中心にいるからこじんまりとした感じはなく、奇妙奇天烈な連中が騒ぎまくるというエネルギッシュな映画である。

 園監督によれば、本来の結末は地下鉄でテロが起きるはずだったのだという。実際には地下鉄サリン事件が起きたため、その結末ではなくなっているわけだが、この映画で描かれる外国人排斥の騒動は、ちょっと前の在特会(在日特権を許さない市民の会)とそれに反対するグループとの抗争なんかを思わせなくもない。この映画自体はそうした政治とは無関係だと思うけれど、時代を先取りしていた部分もあるようだ。

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 日本人のグループと中国人のグループが対立するあたりはTOKYO TRIBEを思わせなくもない。実はそのグループを横断するようにほかのグループが出来てきて、それがゲイ&レズビアンのグループだというのがおもしろい。それでいて両者の仲立ちをするはずの通訳のふたりはなぜか融和を嫌っていて暗躍することになる。

 TOKYO TRIBEは巨大なセットを作り、こだわったカメラワークなども披露していたわけだが、BAD FILMは手持ちカメラでとにかく人を追い回している。舞台は東京の中央線沿線を中心にしていて、ゲリラ的に撮影したものと思われる。なかには渋谷のスクランブル交差点や、新宿駅前をほとんど占拠するような場面も登場する。撮影許可なんか下りないだろうから好き勝手にやっているはず。高円寺あたりの電話ボックスを破壊しているシーンがあるけれど、大丈夫だったのだろうか? 大半はデタラメなエネルギーの発散にも見えるのだが、妙に少女趣味みたいなところがあったり、詩的でもあり、その後の園作品の色々な萌芽が垣間見えるような気もする。

 

 特典映像としてその時代に園監督がやっていた「東京ガガガ」という運動(騒動?)に関しても収められている。外見的には遅れてきた学生運動みたいだが、政治的な主張はなく、とにかく安定した社会に対する園子温のいらだちみたいなものは感じられる。その騒動を傍から見ている人の視線も映されていて、唖然とした表情には胡散臭いものを見ているというのが明らかである。ただ一方でそうした騒動に参加した人も多かったようで、当時「東京ガガガ」に参加した人は2000人くらいいたのだとか。

『薄氷の殺人』 中国製のフィルム・ノワール

 第64回ベルリン国際映画祭で『グランド・ブダペスト・ホテル』や『6才のボクが、大人になるまで。』を退けて、金熊賞と男優賞(銀熊賞)を受賞した作品。

 監督はこれが3作目となるディアオ・イーナン。主演には『ライジング・ドラゴン』にも出ていたリャオ・ファンと、日本にもファンは多いというグイ・ルンメイ『藍色夏恋』『海洋天堂』『GF*BF』など)。

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  ある石炭工場で切断された遺体の一部が見つかる。それらは別の地域にある工場でも次々と発見される。刑事のジャン(リャオ・ファン)は犯人を追うものの、ちょっとした油断で容疑者につながる人物を失い、自分もケガを負って警察を辞めざるを得なくなる。5年後、似たような事件が発生すると、その被害者の周囲には、最初の事件の被害者の妻であったウー(グイ・ルンメイ)の存在があることが判明する。

 

 長回しの場面も多いのだが、アクションの場面などはちょっとぎごちない感じもした。警察の失敗で容疑者に拳銃を渡してしまい銃撃戦になる部分などは、銃が床に落ちてからの警察の反応の遅さにちょっとびっくりした。また、スケート靴での殺人というのは意表をついているけれど、そのアクションがうまかったとは思えなかった。

 逆に、トンネルを抜けると途端に雪国に移行することが、そのまま時間の経過を表すという場面はとても素晴らしかったと思う。それからウーがスケートで逃げるように滑り続けるのを、カメラがどこまでも追っていくという場面もよかった。歩いたり走ったりするのとは違って、何の上下動もなく移動しているのを、クローズアップで見せるという演出は奇妙な感覚だった。

 男を惑わせる女(ファム・ファタール)といい、夜の場面も多いところからしてもフィルム・ノワールの作品ということなのだろうと思う。ウーは意図せずにファム・ファタールになってしまうという存在で、儚さと強さが同居しているといったグイ・ルンメイはよかった。それにも関わらずあまり陶然とするような時はなかったようにも思う。手法に意識的なのはわかるけど、あまりこなれてないからだろうか。

『マップ・トゥ・ザ・スターズ』 クローネンバーグの描くハリウッド・ゴシック?

 『サンセット大通り』的なハリウッドの裏話という宣伝文句になっているけれど、ちょっと違った印象だった。『サンセット大通り』で言えば、グロリア・スワンソンが演じた役となるジュリアン・ムーアの壊れっぷりはそれなりにおもしろいし、カンヌで女優賞を取るのも頷けないわけではないが、この映画はミア・ワシコウスカの映画になっていると思う。父親のテレビでの演説を前にして踊る姿が何とも言えずよかった。

 ジュリアン・ムーア演じるハバナが劇中で観ている映画は、ロバート・ロッセン監督の『リリス』を意識しているようだ(クローネンバーグ本人は否定しているけれど)。長い髪のジーン・セバーグが印象に残る作品で、ゴダールも評価しているのだとか。


 ※ 以下、ネタバレもあり。

ミア・ワシコウスカ演じるアガサはクラリスの星の上に跪く。

 アガサ(ミア・ワシコウスカ)のハバナ(ジュリアン・ムーア)への執着を見ると、ハバナの秘書となったのは意図的なものと思える。そのハバナの母であり、今ではハバナに取り付いている幽霊でもあるクラリス(サラ・ガドン)は焼死したのだし、アガサは弟と心中しようとしてヤケドを負っている。戻って来たアガサの姿を両親が恐ろしい亡霊のように忌み嫌うのは意味深だ。そして、母親はなぜか焼身自殺をしてしまうことからも、クラリスの死とアガサのヤケドは何か関係があるし、そこにはアガサの両親も絡んでいるのだろうとは思う。

 そのことに関して詳しい説明はないのだが、アガサの両親は実は兄妹だったことが影響しているのだろう。近親相姦のタブーを破った結晶としてアガサと弟がいるのだし、母親がその結晶を消したくなったりすることもあるかもしれない(実際に火をつけたのはアガサだということになっているが)。

 そんな星の下に生まれついたアガサは、自分の行動にまったく疑問を抱いていないように見える。この世では決して結ばれないふたりが“自由”になるための「星への地図」がアガサのなかに明確に描かれていて、それは確固たるものとしてあるようだ。一風変った心中ものとしてよかったと思う。



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