サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

2015年03月

『エイプリルフールズ』 4月バカたちの狂騒記

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 豪華な出演者たちが織り成す騙し合いごっこ。

 試写会にて鑑賞。公開は4月1日のエイプリルフール当日から。

 試写会場は普通の試写会よりも年齢層が低かったような印象。それなりに反応もよく、そこそこ笑いも取れていたし、泣かせる部分もある。映画館でポップコーン片手に見るにはいいんじゃないかと思う(というよりもこの映画を見ると「いもけんぴ」が食べたくなるかもしれない)。

 主役の戸田恵梨香はかわいかったし、松坂桃李のおしりは女性ファンにはたまらないのかもしれない(今までにないクズキャラも見所)。「本当のバカなんです」と紹介される父親(寺島進)に誘拐される少女(浜辺美波)もとてもかわいらしかったと思う。

 一応褒めるところはこのくらいだろうか。タダで見させていただいているわけで、そのくらいの宣伝はしておかないと申しわけないので……。

 

 エイプリルフールには嘘をついてもいいとされているわけで、この映画は4月1日の様々な嘘についてのエピソードが描かれる。その嘘には様々な理由があったりするということがわかったり、エピソード間のつながりが見えてもくる。ただ誰が嘘をついているかとか、誰が正直者かなんてどうでもよくなってくる。みんな総じてバカっぽい。というか驚かされる部分がほとんどなかったのだ。こうした底が浅い感じは、ある意味ではわかりやすさでもあるが、これは某テレビ局が関わっているからだろうか? 仲の良い同居人の男たちの顛末なんて、端からオチがわかるような代物だったと思う。

 『スター・ウォーズ』のパロディとかも中途半端な印象だったし、映画全体が嘘みたいな話でもあった。悪い冗談ということだろうか? 宇宙船を呼ぶ際の「ビヨーン」とか、菜々緒の「うそぴょーん」だとか、あまりにも雑な感じ……。子供にはウケるのかもしれないけれど、大の大人にはちょっときつい。

『南へ行けば』 レア・セドゥ出演の日本未公開作

 『アデル、ブルーは熱い色』レア・セドゥ目当てのファンを当て込んで発売されたと思わしき日本未公開作品。ぼくももちろんレア目当て。レアはもちろんセクシーなんだけれど、笑うと歯がすきっ歯で(シュワちゃん風に)、そんなアンバランスなところが妙に気にかかる存在。

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 冒頭ではレアが扇情的な仕草で踊るシーンがある。これはそのままタイトルバックにもなっていて、このシークエンスはタイポグラフィとか音楽(KasabianShoot The Runner」とのこと)とかも含めてとてもシャレている。


 レアは男の気を引くためにそんな躍りをしてみせたわけだが、その男サム(ヤニック・レニエは物思いにふけるためか、女に興味がないのかまったく関心がない様子。そのレアをビデオ撮影しているマチューは彼女の兄らしく、彼もレアの狙っているサムに気があるらしい。

 そんなわけで誰もレアに興味がないという設定。というよりもこれはゲイ・ムービー的な部分もある作品で、主人公はサムなのだから仕方ない。途中からレアが拾ったナンパな感じの男も含めた4人でのロードムービーとなる。男たちは皆それぞれにイケメンだし、ゲイ・ムービーとしてのほうがもしかしたら楽しめるのかも……。

 実はサムには暗い過去があって、そのことに決着をつけるためにある場所へ向かっている。結構暗い部分もあるけれど、フランス映画らしい雰囲気もあってなかなか楽しめると思う。

『愛の果実』 結婚以外の幸せの形は?

 『マリアの乳房』LAST LOVE/愛人』『妻が恋した夏』と続く、ラブストーリーズの1本。

 主演は嘉門洋子。監督は金田敬。

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 トルストイは『アンナ・カレーニナ』の冒頭で「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」と書いているが、この映画の主人公・真理子(嘉門洋子)はその前半部分がどうもそれが気に入らないらしく、普通と同じではない幸せ、結婚以外の幸せもあるはずと考えている。

 真理子は現実にはそれなりの幸せな結婚をしていて、高校時代には人気者だった孝治(吉岡睦雄)と寂れたクリーニング屋を営んでいる。しかし店は借金も抱えていて、そんなときに同級生・安西(河合龍之介)の成功を知って、孝治と共に助けを乞いに行ったのは、真理子が安西と秘かに仲が良かったから。真理子はそんな関係に結婚以外の幸せを探していたということだろう。安西は借金の申し込みに、条件を出す。それは真理子が安西と3カ月間を共に過ごすということだった。

 

 場末のクリーニング屋の女将からIT長者の愛人になった真理子だが、安西と真理子の関係は高校時代の不思議な関係をなぞるようなもの。安西と真理子は高校時代に自殺未遂同士の仲間だったのだ。

 孝治と真理子の関係はありがちな幸せだ。孝治はカブト虫に投資したりして多分失敗するようなダメ男だけれど、それなりに楽しい生活を築いている(カブト虫が妙に生き生きしているのがいい)。一方で大金持ちの安西との関係は未だに過去を引きずっているようで、大の大人が妙に高校生のようにはしゃぐ場面は気恥ずかしくて醒めるかも。

 そんなだからありがちで平凡な幸せに戻るという結末も尤もだという気がした。そんな意味では、幸せな家族が似てくると言ったトルストイはやはり正しかったということなんだろう。

 

 主役の嘉門洋子の脱ぎっぷりはなかなか潔い。孝治役の吉岡睦雄のダメ男ぶりもはまっていたと思う。安西を演じた二枚目の河合龍之介は『妻が恋した夏』でも自殺しかけていたような……。脇役だけれど安西の秘書役でサヘル・ローズが登場していて、パンツスーツ姿が素敵だった。ちょっとだけ水着になるシーンもあって拾い物か?

『妻への家路』 チャン・イーモウとコン・リーのコンビ作品

 チャン・イーモウ監督の最新作。チャン・イーモウは近年は娯楽作なんかも撮っているようだが、そのあたりはスルーしていたのだが、久しぶりにコン・リーが主演ということでちょっと懐かしくて劇場まで足を運んだ。

 チャン・イーモウとコン・リーのコンビ作品としては『紅いコーリャン』『菊豆』『紅夢』『秋菊の物語』などがあり、チャン・イーモウのデビュー作『紅いコーリャン』は赤のイメージが鮮烈な印象として残っている。

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 『妻への家路』は文化大革命に翻弄された庶民の人々を描いている。

 陸焉識(チェン・ダオミン)は政府から右派の汚名を着せられ捕えられていた。ある日、逃亡を図った陸焉識は家にこっそりと戻ってくるが、妻の馮婉玉(コン・リー)は当局を恐れて鍵を開けることができず夫を閉め出してしまう。それから3年後文化大革命は終わり、陸焉識は解放されて家に戻ってくるのだが、妻の馮婉玉は記憶障害で夫の顔を忘れてしまっていた。

 

 家に戻った夫とその妻が、扉を挟んだだけで結局顔を合わせることができないというシチュエーションには泣かされた。しかもその娘は自分の立場を優先して父親の情報を当局に流してしまう。それが原因となり、翌日に母と駅で待ち合わせをした父は当局に捕まることになってしまう。この駅での大捕り物の場面は動きがあってとても素晴らしかったと思う。

 妻の記憶障害の原因が何なのかはよくわからないけれど、症状的には若年性アルツハイマーのようにも見える。妻は「5日に戻ってくる」という夫からの手紙の言葉だけを信じ、忠犬ハチ公みたいに毎月5日には駅へと迎えに行く。しかし夫が実際に帰ってきても、それを夫だと認識することはない。

 夫は妻の病気を理解し、かつて書いていた手紙を妻に送り、自分は手紙を読んであげる親切な人として妻のそばにいるという設定も泣かせる。チャン・イーモウは実生活でもパートナーだったコン・リーの顔に刻まれた年月をアップでじっくりと見せている。さすがに色艶は衰えたかもしれないけれど、コン・リーの表情はとても穏やかだった。

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 一方で娘役のチャン・ホエウェンはとてもかわいらしい。バレエの主役を射止めたいという上昇志向な女の子で、意志の強さを感じさせる眼差しがとてもよかった。中国のバレエというのが出てくるのだが、京劇の仕草とかが交じっているようで奇妙でおもしろかった。

 派手な作品ではないけれど、『紅いコーリャン』あたりでふたりのコンビ作品を観ている人には感慨深い作品だと思う。


『プリデスティネーション』 原作を読む前に映画をどうぞ

 タイムパラドックスをテーマにしたロバート・A・ハインラインの短編「輪廻の蛇」の映画化。原作はプロットが非常に重要なだけに、原作は読まずに臨んだほうが楽しめる気がした。そのくらい驚くべき展開が待っている。

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 バーに現れた青年ジョン(サラ・スヌーク)はバーテン(イーサン・ホーク)に奇妙な話を語る。「おれがまだ小さな娘だったころ……」そんなふうに語りだすのを聞いて、バーテンはもちろん聞き返すわけだが、それは間違いではなくジョンは昔は女だったのだという……。

 

 ここでは肝心のネタはばらさないが、原作では叙述トリックとまではいかなくても、文章だからこそ成り立つ部分がある。つまり映像にするとトリックがバレてしまう。そのあたりは『プリデスティネーション』では改変してうまく処理していたと思う。ただ先に原作を読んでしまった驚きというものは、映画には感じられなかったというのが正直なところだろうか。

 サラ・スヌークという女優さんはなかなかおもしろい。何しろこの役柄はかなり特殊だからだ。半陰陽というのは実際にいるらしい。つまり男であり女であり、そのどちらでもあるという珍しい存在だ。この映画のようにそれに自分でまったく気がつかないということがあるのかはわからないけれど、サラ・スヌークは女役と同時に男役もこなしてみせた。男のときは、ぼくにはクリストファー・ウォーケンみたいに見えた。

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