サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

2015年06月

『オオカミは嘘をつく』 謎解きはないが、拷問好きなら楽しめる?

タランティーノが絶賛したイスラエル映画。6月3日にDVDが登場した。

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 ある日、少女が暴行を加えられた上に、首を切断された状態で発見される(直接の描写はないけれどかなりおぞましい犯行であることはわかる)。刑事のミッキは中学教師のドローンをあやしいとして自白を迫るが、ドローンはあくまで「何もしてない」と否認する。さらに被害者の父親が容疑者ドローンを狙って絡んでくる。

 ミッキはこっそり容疑者ドローンを締め上げて自白させようとするが、もっと用意周到な被害者の父親は辺鄙な場所にある一軒家にふたりを連れ込んで拷問を始める。父親にしてもミッキにしても、目的は被害者である少女の首を見つけることのはずだが、父親の拷問は自白を促すというよりは楽しんでいるみたいにも見える。かなりひどいことをやっているのに鼻歌交じりみたいな軽い印象。

 このあたりは拷問が大好きなタランティーノに合ったのかもしれない。『レザボア・ドッグス』では拷問の末に耳を切り落としたりもしているし……。さらには被害者の祖父まで登場して、イスラエル軍ゆずりの火責めを伝授したりもする(すべからく動物は火を嫌うから、人間にもこれが一番効果的だとか)。バーナーでドローンの肉を焼くのだが、こげた匂いがバーベキューみたいとはしゃいでいるという悪趣味さ。イスラエルという国がかなり血なまぐさいことをやってきたんだろうと推測させてちょっと怖い。

 オチはちょっとデキがよくない。誰がオオカミなのかといった謎解きも適当だし、色々と突っ込みどころは多い。その分、拷問ばかりが目立つ映画になってしまっているように思えた。アラブ人も登場するが、イスラエル人はアラブ人を見るとびびったりもする。自分たちも結構ひどいことをしているのに、それでもアラブ人は怖いらしい。もちろんこれは皮肉が交じっているのだろう。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 これは劇場で体験するしかない

 ジョージ・ミラー監督の『マッドマックス』が約30年ぶりに新シリーズとなって復活。主役はメル・ギブソンからトム・ハーディに代わったものの、そのテンションたるやこれまでの三部作を凌ぐほどのすさまじさ。ただただ呆気にとられ、狂気の世界を体験するだけといった感じ。

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 一応、マックスはこれまでのキャラを引き継いでいるけれど、これまでの作品を観ていなくても問題はない。物語なんかほとんどなく、爆走する改造カー軍団のとんでもないアクションが展開するばかりだから。

 その世界観はかつて後世に多大なる影響を与えた『マッドマックス2』を受け継いでいる。モヒカン暴走族たちが荒廃した世界で、ガソリンと水を奪い合う死闘を繰り広げる。『マッドマックス2』は、有名なところではマンガ『北斗の拳』の世紀末の造形に一役どころかかなりの影響を与えている。当時は「ノストラダムスの大予言」なんかが流行っていた時代、そんなときにぴったりとはまったのが世紀末のような『マッドマックス2』の世界だったのだ。

 今回もそんな荒廃した世界にイモータン・ジョー(演じるヒュー・キース=バーンは『マッドマックス』でボスキャラのトーカッターをやっていた人というのもすごい)というどこかの部族の長みたいなキャラが登場し、それに従う“ウォーボーイズ”という白塗りの男たちはジハード気取りの狂信者たちで、意味もなく炎を吹くギターを弾きまくっている奴とか、とにかくイカれた奴らばかりが暴れまくる。そんな映画だ。

 “ウォーボーイズ”のひとりニュークス(ニコラス・ホルト)は死ぬ気満点だったけれど、手柄をあげる機会を得ながらも、あと一歩でずっこけてしまうという意外にも愛嬌のあるキャラ。『マッドマックス2』で言えばジャイロ・キャプテンみたいな位置だろうか(ジャイロ・キャプテンのキャラが『2』のなかで一番好き)。

 それから今回は女たちが登場する。どの女たちもイモータン・ジョーに見初められて子供を産むという役目を担っているだけに見目麗しい。そんな彼女たちのリーダーはシャーリーズ・セロンが演じるフュリオサ。義手を付けた五分刈りみたいな女で、マックスともやりあったりするほどの度胸の持ち主。とにかくシャーリーズ・セロンとは思えないくらいの汚れようで、主役のマックスを喰わんばかりの大活躍だった。

  ジョージ・ミラーは『マッドマックス』シリーズと『トワイライトゾーン/超次元の体験』(第4話がミラー監督でとても怖い話だった)くらいしか見ていない。最近は『ベイブ』とかファミリー層向けの映画を撮っていたようだが、まだまだアクション演出の腕は衰えていなかったようで、とにかく大満足の1本だった。これまでの三部作もそれぞれ違った魅力を出していたわけで、評判のよくない『マッドマックス サンダードーム』ですらドームでの格闘シーンはおもしろいし、次なるシリーズもそれぞれ新しいものを見せてくれるんじゃないかと期待が膨らむ。

安藤サクラ3本立て 『百円の恋』『0.5ミリ』『白河夜船』

 『愛のむきだし』を見て以来、気になる存在であり続けている安藤サクラの主演作品を3本まとめて。

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『百円の恋』

 6月10日にDVDがリリースされたばかり。

 『百円の恋』という題名だが、恋らしい恋はない。落ち目のボクサー(新井浩文)とそれらしい関係にはなるが、この映画はアラサーのダメな女がボクシングで奮起するスポ根ものだ。やはり何だかんだ言っても単純なスポ根ものは楽しい。今回取り上げている3本の安藤サクラ作品のなかでも断然これが好き。

 安藤サクラがすべての映画。「松田優作賞」という賞を受賞したという脚本は優れたものだが、筋はありきたりとも言える。主人公の一子というキャラクターに命を吹き込めなければ何の意味もないわけで、安藤サクラは完璧にそれをやってのけている。約10日の撮影期間だったらしいが、最初のでっぷりと脂肪のついた身体は、ラストの試合ではボクサーの絞り込んだ身体に変わる。最後は一子を夢中で応援してしまうと思う。

 

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0.5ミリ』

 監督・脚本:安藤桃子、主演:安藤サクラという姉妹コンビの作品。エグゼクティブプロデューサーには奥田瑛二、フードスタイリストには安藤和津という、ふたりの両親の名前もクレジットに登場するという家族映画である。5月13日にDVDがリリースされた。

 主人公の山岸サワ(安藤サクラ)は介護職をしているが、ある事故をきっかけにすべてを失って街に放り出される。それでもサワはじじいたちを捕まえては“押しかけヘルパー”として生きていく。196分という長尺だが、じじいたちのキャラがおもしろくて見せられてしまう。

 押しかけられるじじいたちがまた多彩な面々。詐欺にやられそうな坂田利夫は、“アホの坂田”に近いところで笑わせる。スケベな偽教授役の津川雅彦は、後半で驚くほどの長セリフを聞かせるのが見所。また、安藤サクラにとっては現実の義父となる柄本明(息子の柄本佑は安藤サクラの旦那)とも共演していて、きわどいカラミなんかもあったりして役者ってのは大変だなあと変なことを感じたりもする。


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『白河夜船』

 よしもとばななの小説の映画化。

 4月末から劇場公開され、東京での上映はすでに終了。

 原作に何の興味もなかったが、安藤サクラを目当てに鑑賞。しかし、たまらなく退屈だった(だから何も書く気にならなかった)。長回しというのは時間が長く感じられるが、この映画は91分なのに、やたらと長く感じられる。

 主人公の寺子(安藤サクラ)は男(井浦新)に囲われている。男には妻がいるが、その妻は事故で植物状態なのだ。寺子は囲われた部屋でナルコレプシーみたいに眠りこけているが、観客のこちらも眠気に誘われる。芸術を気取った長回しが多いのだが、それに変化もなければ緊張感もない。安藤サクラは裸や下着だけのシーンなんかも多くて頑張っているが、ベッドシーンというものは長く続くと退屈である(アダルトビデオが退屈なのと同じで)。ピロートークにどこのウナギが食べたいとかの無駄話を見せ続けられるのはきつい……。

『チャッピー』 やっぱり教育って大事

 『第9地区』『エリジウム』のニール・ブロムカンプの最新作。

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 舞台は近未来の南アフリカ。ロボット警官が犯罪者たちを取り締まっているという世界。そんなロボット警官をつくったディオン(デーヴ・パテール)は、さらに人工知能をそれに組み込もうとするが、上司(シガニー・ウィーバー)に止められる。しかしディオンはこっそり壊れかけのロボット警官を持ち帰って人工知能をインストールしてしまう。

 

 ロボット警官の造形は日本のマンガに影響を受けている。ウサギみたいな耳は『アップルシード』とかのデザインによく似ている。後半に大暴れすることになるヒュー・ジャックマン(珍しく悪役)が操作する兵器型ロボ(?)・ムースは『ロボコップ』っぽい感じだし、ニール・ブロムカンプ監督のオタクぶりが十二分に発揮されている。

 人工知能をインストールされたロボット警官はディオンに創造されるわけだが、途中でギャングたちが割り込んできてそれを奪ってしまう。このギャングたちのキャラがまたおもしろい。ニンジャヨーランディというふたり組は役名がそのまま芸名ともなっているヒップホップグループ(ダイ・アントワード)らしい(ふたりは実際の夫婦とのこと)。パンクな風貌なのに妙にかわいらしい声のヨーランディと、『ドラゴンボール』みたいなパンツにはなぜか「テンション」とカナカナで書かれているニンジャ。

 “チャッピー”とヨーランディに名付けられたロボットは、最初はほとんど赤ん坊のよう。人の言葉も理解するし、力も強いのだけれど、まだ何もプログラムされていないため何の役にも立たない。ギャングのふたりは悪事に利用しようとするが、創造主であるディオンは「殺し」だけはダメだと叱る。ロボットにしても教育というのが大事だとよくわかる。ギャングに育てられたチャッピーはヒップホップ系の文化で育っていき、それらしいロボットになっていくあたりがおもしろい。

 日本ではカットされてしまったという場面は、兵器ロボ・ムースが、“アメリカ”と呼ばれるギャングの仲間を殺すところ。“アメリカ”はムースによって真っ二つに引きちぎられるのだが、そこがすっかり抜け落ちている。クラスター爆弾をぶちまけて大暴れしていた戦争機械が、“アメリカ”というギャングを殺すというのは、何らかの風刺が込められているのだろう。『第9地区』だってエビ型エイリアンを南アフリカで差別される黒人に重ねていたわけだから。そんな意味では大事な場面を監督の許可なくカットしたのはいかがなものかと思う(追記:リリースされたアンレイテッド・バージョンはカットされた部分が観られるのだろうか?)。

 ニール・ブロムカンプの作品としては『第9地区』ほどではなくても、『エリジウム』よりは断然いい。物語の展開は強引だけれど、チャッピーは愛らしくて楽しめた。人の意識がデータとして残せるか否かは難しいところだと思うけれど、その辺もエンターテインメントとしてさらっと描いていて好感が持てる。

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