サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

2015年07月

台湾製の青春映画 『共犯』 若いときには色々あるものだ

 ちなみに新宿の某映画館で観たのだけれど、この映画館はかかる作品はいいのだけれど施設にはやや難がある。座席に段差がないために、前の人が座高が高いと――というよりも後の人のことなんて考えたこともないような輩だと――到底まともにスクリーンが見えないことになる。ぼくが観た日にもあきらめて席を立った人がいた(多分立ち見をしたのではないだろうか)。最近ネット予約が可能になったにも関わらず、なぜか一番後ろの席がその対象外のためぼくには意味がない(一番後ろが好きなので)。何とかならないのかなあと思う。

 そんなわけで最初からあまり気分がよくなかったからなのかもしれないのだけれど、この台湾映画もいまひとつ楽しめなかった。ヤフーの映画コーナーでは結構いい評価だったのだけれど……。


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 いじめられっ子の黄立淮はある日瀕死の少女を発見する。ほとんど時を同じくして、ほかのふたりの少年もそれを発見する。血だらけで横たわる少女とそれを見つけた3人の少年という鮮烈なイメージ。少年たちは彼女がなぜ死んだのかを調べ始める。そんなわけで3人の少年探偵団の活躍が始まる。

 といった感じの滑り出し。夏薇喬という少女はなぜ死ななければならなかったのか。3人はあるじを失った夏の部屋へ入り込み、彼女の死の真相を探るために奔走する。調べていくうちに夏は自殺したことがわかり、その裏には別の少女の姿が垣間見えることになる。3人はそうしているうちに仲の良い友達になっていき、黄立淮が発案者となって敵となる少女へ接近し、懲らしめようとするのだが……。

 

 上下の写真のように皆が勢ぞろいする場面はないのだが、それぞれのキャラはよかったと思う。孤独で美しい夏薇喬、いじめられっ子だけれどかわいらしい黄立淮。悪っぽい奴と、のび太みたいな風貌の優等生、真面目で委員長タイプの女の子と、妹キャラの女の子。夏薇喬を演じたヤオ・アイニンが目立つけれど、ほかのキャラもいい。若いって素晴らしい! なぜだか台湾映画はそんな気持ちになるものが多いような気もする。


 ※ 以下、ネタバレもあり! 観てない人はご注意を!


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 しかし、この後は奇妙な展開をしていく。最初に示された謎はフェイクで、そこから先があるのだ。「少女の闇」という物語にしなかったのはよかったのかもしれないのだが、それにしても急な展開に戸惑った。

 たとえば『明日、君がいない』という映画でも、最初に提示された謎はフェイクみたいなもので、最後にすべてひっくり返るわけだけれど、どうもこの手のやつは苦手だ。そんなことを言えば、あの『サイコ』だって主人公と思いこんでいた女が序盤に殺されてしまったりするわけで、そうした例がないこともないのだが、やはり破格の形だと思う。

 明らかにされる真相についても、何だか妙に子供っぽいところがあって、若いときのそんな気持ちをどこかに忘れてきてしまった中年としては、ちょっと素直には受け取れなかった。それにしても偶然の割合が高すぎるような……。


『GF*BF』 三角関係と同性愛と……

 台湾の80年代から90年代を背景にした青春映画。

 主演のひとりには『薄氷の殺人』のファム・ファタール役がよかったグイ・ルンメイが出ているのでレンタルしたもの。2012年製作の台湾映画だが、レンタルが登場したのは今年7月に入ってから。

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 美宝(メイバオ)は忠良(チョンリャン)のことが好きだけれど、忠良は実はゲイで……という関係があって、そこに台湾人とイギリス人のハーフである心仁(シンレン)が絡んでくる。男ふたりと女ひとりという三角関係だが、そこに同性愛も交じっているというのがキモだろうか。

 最初は美宝と忠良は公認の仲として登場するが、実際には男女の関係は何もない。心仁はそれを知って美宝と付き合うことになるわけだが、美宝は忠良と心仁の男同士の関係を羨ましくも見ている。多分、忠良は心仁に好意を抱いている。心仁は人付き合いがいいタイプで、忠良のことを人間的に好きらしくとても親しげに接してくるから、そんな姿に美宝は嫉妬したりもするわけで、なかなか複雑な関係になっている。

 時代的には民主化運動が賑やかだったころの話で、日本で言えば60年代後半とかの学生運動みたいな雰囲気もある。心仁はそんな運動でリーダーシップをとっていたわけだけれど、大人になれば「造反有理」といったスローガンばかりを叫んでばかりもいられなくなり、心仁はいわゆる「転向」をして体制側に付くことになる。そんな時代の変化に応じて3人の関係も変化していく。

 

 ※ 以下、ネタバレもあり!


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 3人がベッドで絡むように編集されている場面がある。実際は、恋人同士であった美宝と心仁のベッドシーンに、忠良が恋人の男と絡むシーンが重ね合わされてそんなふうに見えるだけだ。ゲイである忠良は女である美宝を抱くことはないし、心仁はノンケだから忠良と寝ることも無理な話だということになる。

 結局、想いがすれ違っているところがあるわけで、美宝と心仁の関係も3人の微妙な関係をつなぎあわせるだけのものでしかなったのかもしれない(そんなだから心仁は美宝が離れた場所にいるときに、ほかの女の子と付き合い出してしまう)。なかなか切ない部分が多くて泣かされる話だった。

 美宝を演じたグイ・ルンメイは男女とか言われるような活発な女の子を演じていて、学生運動時代には長髪になったり、社会人となってスーツ姿を見せたりと見所いっぱいだったと思う(腕でハートマークをつくる仕草が妙にかわいらしかった)。

 ふたりの相手役もとてもよかった。心仁を演じるリディアン・ヴォーンは逆モヒカンで登場して目を引く。ハーフだけにイケメンである。忠良を演じたジョセフ・チャン『真夜中の五分前』にも出ていたが、いかにも男っぽい感じでゲイっぽい雰囲気を醸し出していてとてもよかった。



『ターミネーター:新起動 ジェニシス』 シュワ復活もいまいちか……

 あの『ターミネーター』シリーズの第5弾。

 今回は第4作ではちょっとだけ顔を見せただけのシュワルツェネッガーが復活して大活躍。

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 今回は第3作と第4作を無視したような形で、第1作目の冒頭へと戻って物語が再スタートする。途中から第1作目とは別世界の話になっていくのだが、第2作で登場したT-1000の新バージョンとしてイ・ビョンホンが顔を見せたり、最初はなかなかのテンポで見せてくれる。シュワルツェネッガーは年老いたT-800(守護神)と若かりし頃のT-800という二役で、新旧ターミネーター対決で盛り上げる。

 新サラ・コナーのエミリア・クラークは幼く見えるけれどかわいらしい。設定で9歳のころからT-800の教育と受けているために、か弱い女の子ではなく、女戦士として生きているのだが、意外とぽっちゃりとした印象も。この後の続篇で息子を守るために肉体改造するとしたら大変だろうと今から心配になる。

 守護神T-800はサラと長い間暮らしていた影響からか妙に人間っぽくなっている。人間社会に解けこもうとしてニカっと笑顔を見せるのだが、それがぎごちなくてかえって怖い。守護神はキャラとしては幾分がコメディの要素が強い(あまり笑えないのだけれど)。

 

 このシリーズはサラ・コナーとターミネーターのおっかけっこが見所だったと思うのだが、この第5作は肉弾戦が多い。といってもマシン同士の肉弾戦だから、ほとんどマンガのようだし、新登場のT-3000とかも意外と弱点が多かったりして、ハラハラさせるような展開はない。創始者のキャメロンのお褒めの言葉が空々しく聞こえた。

『ラブ&ピース』 園印満点のファンタジックな怪獣特撮映画

 『地獄でなぜ悪い』TOKYO TRIBEなどの 園子温監督の最新作。

 前作『新宿スワン』は、原作はマンガで脚本はほかの人が担当しているため、園子温らしいところが少なかった。それでもキャラクターが豊かで楽しめる作品だったし、沢尻エリカが『ヘルター・スケルター』のときよりもボリュームアップした身体で、ほとんど下着姿ではしゃぎ回るのも見せ場だった。今度の『ラブ&ピース』は脚本もオリジナルだし、エログロはないけれど、園子温らしい力技で見せた映画だった。

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 『地獄でなぜ悪い』でもハイテンションなところを見せた谷川博己が、今回も主役の鈴木良一を演じて大活躍。ダメ・サラリーマンからロック・ミュージシャンへと成り上がって見せる。誰からも蔑まれるような風体で登場し散々いじめられた挙句、たちまち忌野清志郎というかグラム・ロック的なきらびやかミュージシャンへと変身する。

 そんな願いを叶えるのは、良一が飼っていたミドリガメのピカドン。ピカドンは良一に捨てられて流された地下で出会った老人(西田敏行)にそんな力を与えられる。しかしその力は良一の願いを叶えるほど、ピカドンの身体を大きくしていく。良一の欲望に合わせて巨大化したピカドンは街へと逃げ出してビルを破壊するほどになる。

 そんなわけでこの映画は特撮映画でもあるのだ。巨大化したカメと言えば、もちろんガメラを思い出すわけだが、こっちのカメは妙に愛らしいマンガちっくな様子で、その声もとてもかわいらしい。最初は違和感があったけれど、だんだんと愛着も湧いてくる。

 それから良一が歌うラブ&ピース」という曲はあまりうまくはないのだけれど妙に耳に残って、映画を観た後にもリフレインしている。『地獄でなぜ悪い』のときの「全力歯ぎしりレッツ・ゴー」も良一に歌わせているのには噴き出してしまった。

 西田敏行が仕切る地下の場面は、人形やオモチャが命を吹き込まれたようにしゃべり出すというファンタジックなところ。園子温は今までになかったようなファンタジーに加え、特撮怪獣映画までやってみせたわけで、それが成功しているかどうかはともかくとしても意欲的に新しいジャンルに挑戦しているようにも感じられる。

 ヒロインを演じた麻生久美子は変身しないまま終わってしまった。地味だけれど、聴いている音楽はロックっぽい感じで、素性が判明すると変貌を遂げるものだとばかり思っていだたけにちょっともったいないようにも思えた。


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