The Beach Boysのブライアン・ウィルソンの半生を描いた作品。
The Beach Boysと言えば「サーフィン・U.S.A.」のイメージだが、実際にはほとんど聴いたことはなかった。ぼくの世代はリアルタイムで接するには遅れているからそんなものかもしれないが、初めてまともにThe Beach Boysを聴いたのはトム・クルーズが主演した『カクテル』(1988年)の主題歌「ココモ」だった。ただ、この曲はブライアン・ウィルソンのものではないようだ。
ちなみに1990年にはWilson Phillipsという女性3人のコーラスグループが登場して、「ホールド・オン」という曲が大ヒットさせ美しいコーラスを聴かせていた。そのうちのふたりはブライアン・ウィルソンの娘たちだったのだとか。それから村上春樹の小説には何度もThe Beach Boysやブライアン・ウィルソンのことが書かれていたけれど、それでも聴こうとはしなかった。そんなわけでブライアン・ウィルソンの近くをうろついてはいたものの、つい最近までブライアン・ウィルソンのことを知らなかったのだ。
きっかけは最近読んだ『ビートルズの真実』で、The Beach Boysの「ペット・サウンズ」がThe Beatlesの傑作「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」にも影響を与えていたという記載があったから。実際に「ペット・サウンズ」を聴いてみると、たしかに素晴らしいアルバムだったのだ。
「ペット・サウンズ」だけを論じた本が色々と出ているようで、ぼくも村上春樹が翻訳した『ペット・サウンズ』や『ビーチ・ボーイズ ペット・サウンズ・ストーリー』などを読んだ。1枚のアルバムに対して本が書けてしまうというほど「ペット・サウンズ」というアルバムが衝撃的だったということだろうと思う。
そんなわけでThe Beach Boysに関してもブライアン・ウィルソンに関しても素人なのだが、劇場に『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』を観に行ってきた。この作品でブライアン・ウィルソンを演じるのはポール・ダノとジョン・キューザックのふたり。「ペット・サウンズ」を製作していたころを演じるのはポール・ダノで、ぽっちゃりしたところまでよく似ている。その後、精神的に参ってしまいランディ医師(ポール・ジアマッティ)に囲われている時代を演じるのがジョン・キューザック。現実のブライアン・ウィルソンに似ているのはポール・ダノだろうが、精神的な病でぼんやりとしているという雰囲気をジョン・キューザックはうまく出していたと思う。
音楽の世界は大きな金が動くようだ。The Beach Boysの成功でブライアン・ウィルソンには近寄ってくる良からぬ輩も多かったと思われる。もっとも最初にブライアン・ウィルソンの敵となるのは父親なのだが……。その後は医師ランディがブライアン・ウィルソンを金づるとして利用しようとする。
のちに奥様となるメリンダがブライアンに近寄ることを許さないのは、金づるを手放したくないからで、医師ランディはメリンダに「(ブライアンから)金を搾り取りたいならば、列に並べ」と本音を吐く。つまり順番は俺の後だというわけで、そんな輩に利用される天才という役割は大変なのだろうなと同情してしまう。
最後に、復活したブライアン・ウィルソン本人が「ラブ&マーシー」を歌う姿が映し出されるのが泣かせる。「ペット・サウンズ」製作のスタジオがかなり正確に再現されているらしく、様々なアイディアで音作りをしていく過程がおもしろい。多分、昔からのファンの人にはたまらない作品なんじゃないだろうか。とは言え、「ペット・サウンズ」を聴くほどこの映画が素晴らしいかと言うと、そんなことはないと思う。やはりそのくらい「ペット・サウンズ」は素晴らしい。
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