サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

2015年08月

『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』 天才ブライアン・ウィルソンの半生

 The Beach Boysブライアン・ウィルソンの半生を描いた作品。

 The Beach Boysと言えばサーフィン・U.S.A.のイメージだが、実際にはほとんど聴いたことはなかった。ぼくの世代はリアルタイムで接するには遅れているからそんなものかもしれないが、初めてまともにThe Beach Boys聴いたのはトム・クルーズが主演した『カクテル』1988年)の主題歌「ココモ」だった。ただ、この曲はブライアン・ウィルソンのものではないようだ。

 ちなみに1990年にはWilson Phillipsという女性3人のコーラスグループが登場して、「ホールド・オン」という曲が大ヒットさせ美しいコーラスを聴かせていた。そのうちのふたりはブライアン・ウィルソンの娘たちだったのだとか。それから村上春樹の小説には何度もThe Beach Boysやブライアン・ウィルソンのことが書かれていたけれど、それでも聴こうとはしなかった。そんなわけでブライアン・ウィルソンの近くをうろついてはいたものの、つい最近までブライアン・ウィルソンのことを知らなかったのだ。

 きっかけは最近読んだ『ビートルズの真実』で、The Beach Boys「ペット・サウンズ」The Beatlesの傑作「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」にも影響を与えていたという記載があったから。実際に「ペット・サウンズ」を聴いてみると、たしかに素晴らしいアルバムだったのだ。

 「ペット・サウンズ」だけを論じた本が色々と出ているようで、ぼくも村上春樹が翻訳した『ペット・サウンズ』『ビーチ・ボーイズ ペット・サウンズ・ストーリー』などを読んだ。1枚のアルバムに対して本が書けてしまうというほど「ペット・サウンズ」というアルバムが衝撃的だったということだろうと思う。

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 そんなわけでThe Beach Boysに関してもブライアン・ウィルソンに関しても素人なのだが、劇場に『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』を観に行ってきた。この作品でブライアン・ウィルソンを演じるのはポール・ダノとジョン・キューザックのふたり。「ペット・サウンズ」を製作していたころを演じるのはポール・ダノで、ぽっちゃりしたところまでよく似ている。その後、精神的に参ってしまいランディ医師(ポール・ジアマッティ)に囲われている時代を演じるのがジョン・キューザック。現実のブライアン・ウィルソンに似ているのはポール・ダノだろうが、精神的な病でぼんやりとしているという雰囲気をジョン・キューザックはうまく出していたと思う。

 音楽の世界は大きな金が動くようだ。The Beach Boysの成功でブライアン・ウィルソンには近寄ってくる良からぬ輩も多かったと思われる。もっとも最初にブライアン・ウィルソンの敵となるのは父親なのだが……。その後は医師ランディがブライアン・ウィルソンを金づるとして利用しようとする。

 のちに奥様となるメリンダがブライアンに近寄ることを許さないのは、金づるを手放したくないからで、医師ランディはメリンダに「(ブライアンから)金を搾り取りたいならば、列に並べ」と本音を吐く。つまり順番は俺の後だというわけで、そんな輩に利用される天才という役割は大変なのだろうなと同情してしまう。

 最後に、復活したブライアン・ウィルソン本人が「ラブ&マーシー」を歌う姿が映し出されるのが泣かせる。「ペット・サウンズ」製作のスタジオがかなり正確に再現されているらしく、様々なアイディアで音作りをしていく過程がおもしろい。多分、昔からのファンの人にはたまらない作品なんじゃないだろうか。とは言え、「ペット・サウンズ」を聴くほどこの映画が素晴らしいかと言うと、そんなことはないと思う。やはりそのくらい「ペット・サウンズ」は素晴らしい。



『ホドロフスキーのDUNE』 あの幻の作品についてのドキュメンタリー

 アレハンドロ・ホドロフスキーの未完の映画『DUNE』についてのドキュメンタリー。昨年劇場公開され、6月にソフトがリリースされた。

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 『デューン/砂の惑星』と言えば、デヴィッド・リンチ1984年に映画化した作品だ。以前テレビで見たがSF大作というリンチらしくない題材が悪かったのか、壮大な感じはしたが失敗作としか思えなかった。リンチの映画化の際にも製作が難航したという噂はどこかで読んだ記憶があった。「製作が難航」というのは、結局は企画倒れになったということで、その企画の主が『エル・トポ』のホドロフスキーだとは知らなかった。

 この作品は基本的にはホドロフスキーのインタビューが中心になっていて、彼が戦士と呼ぶ製作陣の言葉や、奇抜なメカデザインなどのアイディアが散りばめられている。ホドロフスキーの出世作『エル・トポ』はカルト人気がある作品でおもしろかったが、最近の『リアリティのダンス』は破天荒な作品なのだがどうにもノレれず、劇場で眠さと格闘した記憶しかない(あとは放尿のシーンくらいか)。

 この『DUNE』を観ると、作品よりも監督自身のほうが何倍も面白いんじゃないかと思えてくる。『DUNE』とはホドロフスキーにとって映画の革命のようなものだったようだ。とにかくホドロフスキーは熱い男だ。その語り口を聴いているとそれだけで気分が高揚してくるようだ。製作陣の面々もそんなホドロフスキーの言葉にはまっていたようで、製作が中止になったのは本当に残念なことだ。

 スタッフとしてはダン・オバノンH・R・ギーガー、役者としてはサルバドール・ダリミック・ジャガーオーソン・ウェルズ、音楽にはピンク・フロイドまでが名前を連ねている。彼らが生み出したストーリーボードは後にハリウッドの多くの作品にインスピレーションを与えることになったようだ。『スター・ウォーズ』『エイリアン』もそこからアイディアをいただいている(ダン・オバノンとギーガーは『エイリアン』で重要な役割を担っているのは有名な話)。つい最近の『プロメテウス』にもギーガーのデザインが利用されているが、そんな人材をあちこちから掘り出してきて映画に参加させたホドロフスキーのエネルギーもすごいものだと思う。


『KANO 1931海の向こうの甲子園』 麗しい話だがちょっと長い……

 『セデック・バレ』ウェイ・ダーションの脚本で描く、甲子園を目指す台湾代表の史実を描いた作品。主役の野球部監督には永瀬正敏

 今月DVDがリリースされた。

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 時代は1931年で、台湾が日本に統治されていたころ。だから台湾代表も甲子園に出るということになる。嘉義農林高校(通称:KANO)の野球部は日本人と漢人と台湾原住民の混成チーム。いまだに1勝もしたことのない弱小チームだが、近藤兵太郎という新監督が来たことで変わっていく。

 この映画は台湾では大ヒットし、映画賞でも評価が高かった作品だ。ちなみにヤフー映画のコーナーでもかなり高い評価になっている。ただ星5つを付ける人も多い一方で、星1つの人も結構いるという珍しい作品。

 3時間の長丁場だが途切れる部分がないのはたしかで、何となく見せられてしまう。ただ基本的には野球を題材にしたスポ根ものだから、もっと短くてもよかったように思える。大沢たかおが灌漑事業を完成させる八田という役柄で中途半端に登場するのだが、野球のエピソードと関係ないために無理につないでいるようにも感じられる。日本が台湾に与えた恩恵という部分をアピールしたかったのだろうか。

 スポ根ものだけにかなりベタである。野球はサッカーみたいにあっという間に点が入るわけではない。塁が埋まることで盛り上がるポイントも明らかだし、それに向けてドラマは高まっていく。ベタベタな展開だけに、ボロボロ泣ける。だけどそれだけで終わってしまったような気もする。

 個人的には坂井真紀が顔を出していたのが一番見どころだった。

『この国の空』 戦争中も女は女でなぜ悪い

 原作は高井有一の同名小説。監督・脚本には荒井晴彦

 出演は二階堂ふみ長谷川博己など。ふたりは『地獄でなぜ悪い』でも共演している。

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 今日は首相の戦後70年の談話が発表される予定とのことで、「戦後70年目」に際して『野火』『日本のいちばん長い日』のような第二次大戦を題材にした作品が公開されている。『この国の空』も戦争を題材としているが、血が流れるのは蚊が叩かれるところと、主人公が処女を喪失する場面のみ。そんな意味ではちょっと珍しい視点の作品だったように思う。

 舞台は東京杉並で空襲もなく一応普通の生活があるものの、戦況は激しさを増していることも伝わっていて、主人公の里子(二階堂ふみ)は「結婚もできずに死ぬのか」という想いを抱えている。戦地で実際に敵と対峙する兵隊たちはもちろん大変だっただろうが、戦争が奪うのはそればかりではないことがよくわかる。最後の二階堂ふみの声で朗読される茨木のり子の詩「わたしが一番きれいだったとき」が里子の心情そのままみたいにぴったりだった。

 わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

 ちなみにこの作品では二階堂ふみのおしりを垣間見ることができる。市毛(長谷川博己)との初体験が終わったあとの行水の場面だが、恥ずかしさから里子が灯りを暗くさせるために少々薄暗いが若々しい後姿のヌードだった。

 この記事では監督は二階堂に腋毛をつけさせようと考えていたとのことだが、どうやら二階堂は嫌がったようだ(ネタ元が信頼できるのかはよくわからないが)。「わたしが一番きれいだったとき」と謳っているのに腋毛が黒々としていたらちょっと興ざめするかもしれない(インパクトはあったかもしれないが)。別のシーンでは母親役の工藤夕貴が明るい日差しの下で腋毛を披露していて、かつてはそっちのほうが普通だったのだろうとは思うのだけれど……。

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