サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

2015年10月

『ヴィジット』 祖父母が知らない人になっていく

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M・ナイト・シャマラン監督の最新作。

 原点回帰とも呼ばれているこの『ヴィジット』は昔の勘を取り戻したようなところもある。『エアベンダー』『アフター・アース』はやはり雇われ仕事だったみたいで、こっちの系列が本筋のシャマラン作品ということになるのだろうと思う。

 物語は、姉と弟が母方の祖父母の家に初めて訪れるところから始まる。今までまったく会ったこともなかった祖父母というのがいかにもあやしい。地下室は散らかっているから入るなと釘を刺されるところもまたあやしい。夜になれば今度は部屋の外から奇妙な物音が聞こえてきて、恐る恐る扉を開けて見てみると祖母の奇行……。

 そんな感じで次々と伏線が張られていくわけで、それがどんなふうに回収されるのかというのがシャマラン作品の楽しみ方ということになるのだろうと思う。とは言っても『シックス・センス』のようにどんでん返しが見事に決まるわけではなく、『ヴィレッジ』のような着地点だったようにも思える。

 この映画でよかったのは祖父母の怖さだろうか。自分の知っている祖父母が何かしら別のものになっていくというあり様は、アルツハイマーとか進行した老いの怖さを感じさせる部分もあった。

 出演陣はほとんど知られていないような人たちばかり。姉を演じたオリビア・デヨングはなかなかわいらしかった。ラップ好きな弟を演じたエド・オクセンボウルドがこの映画の笑いの部分を担当。怖さのなかに奇妙な笑いが同居しているという点でもシャマランらしい作品だった。最後の最後でもラップを聞かせてくれる。

『白い沈黙』 謎は解決したものの……

 『スイートヒア アフター』『CHLOE/クロエ』『デビルズ・ノット』などのカナダの映画監督アトム・エゴヤンの最新作。

 誘拐された娘のキャスが生きているという手がかりが8年後に突然現れてきて……。というのが物語のスタート。8年後いまだに監禁状態にあるキャスだが、意外にも清潔な部屋で監視付きではあるけれどそれなりの生活をしているように見える。犯人の男はなぜかキャスを監視すると同時に、ホテルで働くキャスの母親(ミレイユ・イーノス)のことも監視している。しかもその母親の様子はキャスも見ることができるというよくわからない状況で、いったい何のためにという疑問も沸いてくる。

 ※ 以下、ネタバレもあり!

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 といってもこの作品は謎解きものではないのだろうと思う。事件のあらましはすぐにわかってしまうからだ。キャスを監禁している男は、実は子供を誘拐して商売にしている組織のひとりである。キャスは8年前に誘拐され、その後何をされたのかはわからないのだけれど、「もう大人になったから興味もないでしょう?」などと言っているところに鑑みると、少女が好きな大人から性的いたずらをされたのかもしれず、それを想像すると恐ろしい話なのだけれど、そういう場面はまったくない。

 囚われの身のキャスだけれど、今では逆に少女を誘拐するためにネットで罠を仕掛けている。生きるために強制されているのかもしれないけれど、意外にも楽しんでやっている感じでもある。父親との会話での「ギミックとトリック」という話は、そんな小細工はせずに自由にのびのびとやればいいみたいなエピソードだったわけで、誘拐犯たちに尽くすことがキャスの生きがいみたいになっているというのが妙なところだった。

 エゴヤン作品は結構な割合で金髪美女が登場するようだ。CHLOE/クロエ』アマンダ・セイフライドとか、『スイートヒア アフター』のサラ・ポーリーがいい例だ。この『白い沈黙』でも、キャスを演じるアレクシア・ファストが金髪美女で、誘拐された少女とは思えないくらいすくすくと育っていてとてもかわいい。公式ホームページにもアレクシア・ファストの写真が出ていないのは、誘拐された少女がどうなるかは謎にするためなのかもしれないのだが、映画が始まるとすぐにキャスが登場するわけで隠す意味がよくわからなかった。

 キャスは少女の気を惹くためにかわいらしい格好をしてみたり、父親(ライアン・レイノルズ)と会わせるように懇願したりと監禁されている状態とは思えないからあまり悲惨な感じはしない。題材は結構酷いのだけれど、それに見合うリアルさがまったくないというのは、少女に対する性的虐待などをあからさまに映像化したら映画として成立しないからだろうか。とにかく『デビルズノット』にもモヤモヤしたけれど、『白い沈黙』も褒められたものではなかった。

 ※ 下の写真がアレクシア・ファストこの映画のものではないが)

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『龍三と七人の子分たち』 ヤクザも今はつらいよ

 北野武監督の最新作。昨年劇場公開され、今月になってDVDが登場した。

 『アウトレイジ』シリーズではハードなヤクザものをやっていた北野武だが、今回はちょっと力の抜けた感じのコメディだ。ヤクザ稼業なんて今どき流行らないわけで、昨今の厳しさを増す暴対法だとか、暴力団よりもタチが悪い半グレ勢力なんかも登場する現代のヤクザものとなっている。

 主人公の龍三(藤竜也)からしてもうヤクザは引退していて、家では息子から邪魔者扱いされているかわいそうなおじいちゃんといった感じ。息子はカタギの人間で、家では肩身が狭い思いをしているのだ。背中の龍の刺青は未だに消えないけれど、肩で風を切っていたあのころはよかったと仲間と愚痴り合うといった日々。近頃、目に余る京浜連合という半端者たちに対抗するために昔の仲間たちが集まって新しい組を設立することになる。

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 それほどテンポがいいわけではないし、『アウトレイジ』のようなカッコよさもないのだけれど、この作品で北野監督がやろうとしているのは漫才みたいなものなのだろうと思う。詰めた指のせいで色々と騒動が生じたり、組設立の挨拶に行けば、よくあるヤクザの口上にはいちいち相手からツッコミが飛んでくる。一番おかしいのは途中でくたばって死に装束のまま襲撃に付き合わされるモキチ(中尾彬)に対する虐待だろう。死人に鞭打つなんてものじゃないひどい仕打ちなのだけれどもついつい笑ってしまう。

 それから飛行機での自爆テロは途中で攻撃対象をアメリカに移すわけだけれど、多分、北野監督は本当はそのまま航空母艦に突っ込ませたかったのだろうと思う(モキチなめの空のカットがよかった)。さずがにそれではと周囲から止められたのだろうが、北野武の毒が出ていて笑える作品だったと思う。


『私の少女』 ペ・ドゥナ主演のきわどい話

 海辺の小さな村にペ・ドゥナ演じる警察官ヨンナムが所長として赴任してくる。狭い村のなかで少女ドヒ(キム・セロン)がいじめを受け、家庭でも虐待を受けていることが明らかになる。このあたりの展開は同じ韓国映画の『トガニ』を思わせる。実話を元にしたという『トガニ』は本当に信じられないくらい酷い話だったけれど、こちらもなかなかきわどい作品になっている。

 ドヒは家庭で虐待を受けているけれど、その家族とは血がつながっていない。そんなわけでドヒには味方がまったくいないわけで、たまたま助けてくれたヨンナムは警察所長という権力の持ち主であるし、それに頼るのは当然だったかもしれない。家族から守るために自分の家にドヒをかくまうことにするヨンナムだが、彼女もまた問題を抱えている。

 

 ※ 以下、ネタバレあり!


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 中盤にヨンナムを訪ねてくる女性が現れる。当然観客としてはドヒの母親だろうと推測するのだけれど、実はその女性はヨンナムの元彼女ということが明らかになる。実はヨンナムは同性愛者でそのことが原因で田舎に左遷されてきたのだ。そんなわけでヨンナムはミネラルウォーターみたいに偽装した焼酎を手放すことができないくらいに病んでいる。

 レズビアンの女性が成長著しい中学生を囲っているということになると、その雰囲気もちょっと違ってくる。バスルームでふたりが裸になる場面はそれほど露出はないけれど、かなりきわどいシーンになっていると思う。だってレズビアンと胸が大きくなりかけの少女なのだから……。

 この映画はさらにドヒが単なるいじめられっ子ではなく、狡猾な企みを持つ危険な女へと変貌していくところを描いている。「虐待なんかさせてはいけない」とドヒをそちらの方向へと導いてしまったのはヨンナムなのかもしれないけれど、ドヒはちょっと怖いところもある。

 ドヒは演じているのは『アジョシ』でウォンビンと共演していたキム・セロンとのことで、あれから比べると大きくなったなあと感慨深い。そしてそれを見守るペ・ドゥナ『クラウドアトラス』『ジュピター』はいいところがなかったけれど、この映画では出ずっぱりで見どころ満載だと思う。あまり美人さんというわけではないのだけれど、妙に気になるところがある女優さんだ。


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