サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

2015年11月

『東京無国籍少女』 最終兵器たる清野菜名が見どころ

 押井守監督の実写映画。

 主演はTOKYO TRIBEの清野菜名。

 7月に劇場公開され、今月DVDが登場した。

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 一応は学園ものみたいな感じで進む。この辺はスローモーションをこれみよがしに使うばかりで正直退屈。金子ノブアキの演じる先生は先生に見えないけれど、おもしろいのはそのあたりくらいだろうか。結局は最後の戦闘シーンがやりたかったんじゃないかと思う。というか極論すれば、最後の15分だけ見ればいいんじゃないかとも思う。今回は劇場ではなくDVDだったので、最後だけは繰り返して何度も見た。

 最後は学園にロシア風の戦闘部隊が乗り込んできて、それを天才のなれの果てとか呼ばれていた藍(清野菜名)がそれを一掃するのが一番の見せ場。清野菜名は『TOKYO TRIBE』でもその運動神経は証明済みだったわけだけれど、この映画では殺人術を学んでロシア兵たちをなぎ倒していく。

 ちょっと長めのスカートに自らスリットを入れて立ち回りをするものの、パンチラはまったくない。それよりも激しいアクションのほうを見てほしかったということなのかもしれない。『TOKYO TRIBE』では園子温の趣味で散々パンチラはやっていたわけだし……。

 

 複数で押し寄せるロシア兵に対し、たった独りの清野菜名はひとりを倒すとそれを壁として利用する。ナイフも使うのだが、その使い方が手首や足首などに切りつけていくという残虐さ。

 こうした戦闘術をどこで学んできたのかはよく知らないのだけれど、昔、リングスというプロレス団体に所属していたヴォルグ・ハンを思い出した。ヴォルグ・ハンはロシアのコマンド・サンボの使い手で、手首を取って相手を転がしたりする技を持っていて、この映画でも相手を壁として利用するあたりの身体の使い方なんかはコマンド・サンボっぽい動きに思えた。そのあたりの格闘ものが好きな人にはお薦め。

『カミーユ、恋はふたたび』 変えることのできるものと、変えることのできないもの

 フランス産のタイムトラベルもの。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』以来タイムトラベルものは気になってしまうので劇場で観てきた。

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 主人公は結構なおばさんのカミーユ(ノエミ・ルボフスキー)。売れない役者として殺される役なんかをやったりしている。25年も連れ添った夫には若い愛人が出来て、離婚を切り出され酒を飲まずにはいられないという状態。パーティでも泥酔して気を失うとなぜか16歳のころに戻ってしまう。

 この作品でおもしろいのは16歳のころに戻っても、観客はカミーユがそれまでのおばさんとしか見えないということ。しかし映画のなかの登場人物たちにはカミーユは16歳に見えているらしく、両親もおばさんのカミーユを16歳として扱う。おばさんが妙にフリフリのスカートとパンクなTシャツで登場することになるのがちょっとおかしい。

 実はこの映画のカミーユの友達たちを演じる役者も結構な年齢だ(30代から40代というところ)。そんな役者たちが16歳を演じるのだけれど、そのなかに混じってもカミーユはより老けて見える。監督も務めるノエミ・ルボフスキーはそのなかでも一番年上なのは間違いないのだけれど、そんなおばさんが段々とかわいらしく見えてくるところに監督が自分を主演として映画化した意図があるのだろうと思う。とはいえやはり年齢が年齢だけに初々しさには欠けるところがあるのは否めないし、タイムトラベル映画としても新味があるわけでないのが惜しいところ(過去のなかに歳を食った登場人物が戻っていくというアイデアはベルイマン名作『野いちご』にもある)。

 よかったところもある。16歳のときにはまだ生きている母親は、その後すぐに脳卒中で死ぬことになるのだが、カミーユはそれを阻止しようともするが結局過去は変えることはできない。死ぬことがわかっていてもどうしようもないという場面はちょっと切ない。

 ただこの映画では未来が変わる部分もある。そこで引用されているのが有名な「ニーバーの祈り」カート・ヴォネガットの小説『スローターハウス5』にも引用されていた)。変えることのできるものと、変えることのできないものがあるというのは真実だなあとしみじみ思わせる。その「ニーバーの祈り」をカミーユに授ける人物としてジャン=ピエール・レオが顔を出しているのは嬉しい。


『水の声を聞く』 山本政志という監督について

 実践映画塾「シネマインパクト」を主宰していた山本政志が、『恋の渦』で稼いだお金をつぎ込んで製作したという最新作(先月にDVDがリリースされた)。

 山本政志という名前はどこかで聞いていたのだけれど今回が初めての鑑賞。

 主役の玄里は「王様のブランチ」などにも出ていた人らしいが、3カ国語を操る才女。この作品で高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞した。共演の趣里水谷豊伊藤蘭の愛娘とのこと(やはりお母さんに似ているような)。

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 新興宗教の教祖が主人公というきわどい題材。主人公のミンジョン(玄里)はたまたま祭り上げられてしまっただけの教祖さま。友人の坂井美奈(趣里)とともに占いの真似事なんかを始めてみたところ人気が出てしまって、それを利用しようという広告代理店の男(村上淳)などが裏方になって「真教・神の水」という教団を立ち上げることになる。

 ミンジョンは在日韓国人。バーに飲みに出かけて仲間とくだらない話に興じるようなごく普通の女の子だが、教団内で教祖の役を演じるときはチマチョゴリに身を包み、神からの言葉を授ける。

 教団が大きくなっていくにつれ、小さくまとまっていたもののなかにも考え方の違いが生まれてくる。そんななかでミンジョンは母親や祖母の人生を知ることで、ニセモノの教祖から本物の祈り求めるようになる。

 

 宗教的な儀式として重要な役割を演じる水のイメージがとても印象的。宗教を舞台にした映画だと思うと堅苦しいけれど、そんなこともなくミンジョンの父親みたいな裏社会とつながっている人物とかも登場して物語はにぎやかに進んでいく。本物の教祖に目覚めてしまうミンジョンの代わりに、コントロール可能な新教祖をでっちあげたりするのも新興宗教だったらありそう。色々なキャラクターが蠢いている感じでエネルギッシュだった。

 

 この作品がよかったから山本政志監督の過去作品をいくつか観た。海外で評判を取った『ロビンソンの庭』は前衛作品みたいな雰囲気。緑の森のイメージがとても素晴らしく、水のイメージにも溢れている(スタッフには諏訪敦彦平山秀幸の名前も)。ただこのサイトのインタビューなんかを読むと、監督自身が「インテリやヨーロッパに支持されて吐き気がしてきちゃって」などとも語っている。アホな映画も好きなようで『アトランタ・ブギ』は町内の運動会になぜかベン・ジョンソンが登場するというハチャメチャな作品というわけで両極端な印象も。『水の声を聞く』はエンターテインメントとアートの両面がごっちゃになったようなところがよかったと思う。

 また、『聴かれた女』という作品はAV女優の蒼井そらが主役。蒼井そら演じる主人公が隣に引っ越してきた男に盗聴されるという話。最初は蒼井そらってこんな顔だった(?)と疑問に思いながら見ていると、実は盗聴男の妄想のなかという設定。実際に女の姿を見ると本物の蒼井そらが登場する。DVDでは盗聴男の妄想と、その見えなかったはずの映像がリンクするというおもしろい設定もある。


『グラスホッパー』 最高の調味料は?

 伊坂幸太郎の同名原作の映画化。

 監督は『脳男』などの瀧本智行で、主演も『脳男』の生田斗真

 渋谷のスクランブル交差点がハロウィンでごった返すなか、そこに一台の車が突っ込んでいく。通行人が何十人も殺されるという大事件となる。その事件で恋人を殺された教師の鈴木(生田斗真)は、ある日、事件を裏で操っていた人物がいることを知る。復讐のためにターゲットの組織に乗り込んでいく鈴木だったが……。

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 鈴木のターゲットとなる寺原(石橋蓮司)は裏社会の人間。事件を起こして合成麻薬市場を操ろうとしていたらしい。要は金のためなら世の中の有象無象など何とも思わない鬼畜なのだ。それから鈴木と寺原との関係以外にも、この作品には重要な筋がある。それは裏社会の殺し屋たちの話。鯨(浅野忠信)は自殺屋で相手の心を操って自殺に追い込む。蝉(山田亮介)はナイフ使いの若者。そして、寺原の息子を殺した押し屋(吉岡秀隆)の武器はただターゲットを押すだけ。

 これらの殺し屋が物語に絡んでくるのだが、どこかで誰かが彼らを操っているようでもあり、鯨と蝉は最後に闘うことになる。原作ではそのあたりがよかったような気がする(詳細は忘れた)。映画のなかの闘いは特段目新しさも激しさもなく、なぜ惹かれあうように闘うのかもよくわからなかった。

 原作は人気作家のものだけに、この映画版も物語はおもしろいのだけれど、結局物語しかなかった気もする。カッコいい殺し屋が登場して警句めいた言葉をしゃべったりもするし、雰囲気も悪くないのだけれど尖ったところが何もない。おもしろくないこともないのだけれどあまりに普通すぎる。

 渋谷のスクランブル交差点は、実際に原寸大でセットを組んだのだというからビックリする。本当に渋谷で撮影したのかと思うくらいだった(鯨の住処であるバス内の造形もよかった)。確かにあんな事故シーンは渋谷のど真ん中では無理だろう。その点はすごいのだけれどそのほかがちょっと……。

 亡くなった鈴木の恋人(波瑠)は想い出のなかで「最高の調味料は?」などと訊くのだけれど、あまりにベタな感じもする。答えは誰でも予測がつくわけで、鈴木が「塩かな」なんて返すのもよほど鈍い人なのかと疑ってしまった。そんな普通の幸せなカップルを描きたかったのかもしれないのだがちょっと寒かった。波瑠は雰囲気といい、ショートカットといい、個人的には大好きなのだけれど。


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