小さな部屋に母親と子供が暮らしている。天窓がひとつあるだけで外は空しか見えない。子供は髪が長いが実は男の子で、その部屋以外の世界はないものと考えている。テレビはあるのだけれど、テレビは偽物の世界であり、本当の世界は小さな部屋だけと信じている。

 実はこの部屋は母親であるジョイ(ブリー・ラーソン)が監禁されている場所なのだ。夜になるとやってくる男がジョイを突然誘拐し、それから生まれた子供がジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)なのだ。

 日本ではちょっと前に似たような事件があり、犯人も逮捕されたことからなかなかタイムリーな映画となった。

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 こうした映画では囚われの女性が脱出するところが山場となり、家族と再会したところで大団円を迎えるというのが普通だと思うが、この映画はその先を描いている。家族のもとに帰って社会復帰するところにこそ本当の闘いが待っているというあたりはとてもリアリティがある。実際に映画ではジョイの父親は、娘を誘拐した犯人の息子でもあるジャックを受け入れることができないわけで、そうした厄介な問題を多く孕んでいる。

 けれども色々と盛り込みすぎた感じもある。小さな部屋だけの世界の描写、それから脱出のサスペンスがあり、さらに社会に戻ってからの新たな闘いがある。家族と再会する場面などは泣かせるのだけれど、立ち直りまでに至るところはそれほど説得力があったとは思えなかった。

 母親はジャックがゾンビ状態と呼ぶところの鬱になるときがあって、それも理解できるほど色々と問題を抱えているわけで、最後は前向きで頑張ろうといった終わり方だったところが妙にリアリティを欠いている気がした(多分そうしないと劇映画としては終われないんだろうけど)。

 

 『ショート・ターム』で有名になったブリー・ラーソンは、この作品でアカデミー賞主演女優賞を獲得したけれど、圧倒的にいいとは思えなかった。同じような題材の『白い沈黙』では誘拐された少女が妙にハツラツとしているのが妙だったけれど、『ルーム』のブリー・ラーソンはいかにも疲れた印象で、子供を守るためか表情は仁王のようにこわばっている。誘拐犯のお眼鏡に適う少女なのだから可憐なところがあってもよさそうなのだが、そんな側面は微塵も感じられなかった。母親になってそうしたところは失われたのかもしれないけれど……。

 本当の世界に初めて対面することになるジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイはとてもかわいらしくてよかったと思う。