80年代前半のアルゼンチンで実際に起きていた話。

 ペドロ・アルモドバルが製作を務めた作品。監督はパブロ・トラペロ。ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞したとのこと。

 1a656f5080ac0d67

 プッチオ一家はそれなりに裕福な家族。父親アルキメデス(ギレルモ・フランチェラ政府の情報機関で働いていたらしく、長男アレハンドロ(ピーター・ランサーニ)はラグビー選手としても活躍している。そんなプッチオ一家の隠れた仕事は誘拐業だったというのが、この事実をもとにした映画の恐ろしいところ。

 アルキメデスは裕福な家の人間を狙って拉致しては結局殺してしまい、身代金でたんまりと稼いでいる。そして家族であるアレハンドロはそれに加担させられることになる。母親は何となくその仕事を知っていても知らんぷりだし、娘たちは変だとは感じても誘拐までやっているとは知らなかったのかもしれない。

 父親のアルキメデスが誘拐までして金を稼ぐのはなぜか。最初は革命組織めいた名前を騙っていたために、政治的な信条でもあるのかと思っていたのだが、そんなことはまったくないようで、要は金のためだったようだ。しかもアルキメデスはかつて国の機関で仕事をしていたため、悪事を働いても捜査機関のほうで見逃していてくれていたようでもある。それでも時代の変化はやってくるもので、悪事を庇いきれなくなってプッチオ一家は破滅することになる。

 

 予告篇なんかを見るとブラック・コメディに思えるのだが、実際にはそんなことはない。リアリズムに徹している。悪事の場面に軽快な音楽が流れるというのがリアリズムからはズレているのかもしれないけれど、それほど外している感じもしない。結局はただひたすら事実の羅列があるだけで、描かれていることは衝撃的だけれども意外と退屈に感じられてしまった。

 怖いのは父親アルキメデスが悪事を悪事とも思っていないことで、しかも家族は協力するのが当たり前と考え、逃げ出した弟などは裏切り者だとひどく非難されたりする。善悪の感覚みたいなものがまったくないのだ。一番の被害者は長男のアレハンドロだったのかもしれない(もちろん誘拐された人はもっと酷い目に遭ったわけだけれど)。

 父親を演じたギレルモ・フランチェラのぎらついた目が印象的。ウド・キアーみたいだった。