『地獄でなぜ悪い』『TOKYO TRIBE』などの 園子温監督の最新作。
前作『新宿スワン』は、原作はマンガで脚本はほかの人が担当しているため、園子温らしいところが少なかった。それでもキャラクターが豊かで楽しめる作品だったし、沢尻エリカが『ヘルター・スケルター』のときよりもボリュームアップした身体で、ほとんど下着姿ではしゃぎ回るのも見せ場だった。今度の『ラブ&ピース』は脚本もオリジナルだし、エログロはないけれど、園子温らしい力技で見せた映画だった。
『地獄でなぜ悪い』でもハイテンションなところを見せた長谷川博己が、今回も主役の鈴木良一を演じて大活躍。ダメ・サラリーマンからロック・ミュージシャンへと成り上がって見せる。誰からも蔑まれるような風体で登場し散々いじめられた挙句、たちまち忌野清志郎というかグラム・ロック的なきらびやかミュージシャンへと変身する。
そんな願いを叶えるのは、良一が飼っていたミドリガメのピカドン。ピカドンは良一に捨てられて流された地下で出会った老人(西田敏行)にそんな力を与えられる。しかしその力は良一の願いを叶えるほど、ピカドンの身体を大きくしていく。良一の欲望に合わせて巨大化したピカドンは街へと逃げ出してビルを破壊するほどになる。
そんなわけでこの映画は特撮映画でもあるのだ。巨大化したカメと言えば、もちろんガメラを思い出すわけだが、こっちのカメは妙に愛らしいマンガちっくな様子で、その声もとてもかわいらしい。最初は違和感があったけれど、だんだんと愛着も湧いてくる。
それから良一が歌う「ラブ&ピース」という曲はあまりうまくはないのだけれど妙に耳に残って、映画を観た後にもリフレインしている。『地獄でなぜ悪い』のときの「全力歯ぎしりレッツ・ゴー」も良一に歌わせているのには噴き出してしまった。
西田敏行が仕切る地下の場面は、人形やオモチャが命を吹き込まれたようにしゃべり出すというファンタジックなところ。園子温は今までになかったようなファンタジーに加え、特撮怪獣映画までやってみせたわけで、それが成功しているかどうかはともかくとしても意欲的に新しいジャンルに挑戦しているようにも感じられる。
ヒロインを演じた麻生久美子は変身しないまま終わってしまった。地味だけれど、聴いている音楽はロックっぽい感じで、素性が判明すると変貌を遂げるものだとばかり思っていだたけにちょっともったいないようにも思えた。
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