『パラダイス・ナウ』『オマールの壁』のハニ・アブ・アサドの最新作。
実話をもとにした作品。
パレスチナのガザ地区に住むムハンマド・アッサーフのサクセス・ストーリー。
ガザ地区の破壊のされ方はかなりひどい。空爆でビルも破壊され、廃墟のような状態のまま放置されている。それでもガザの人々はそのなかでも普段のような生活をしている。子供たちは音楽に夢中だし、崩れたビルを利用してパルクールみたいに飛び回っている若者たちもいる。もちろんガザ地区は防護壁に囲まれて出て行くことも難しい場所で、ムハンマド・アッサーフにしても絶望を感じていたりもする。
ムハンマド・アッサーフは見事な声の持ち主で、ガザ地区を抜け出し「アラブ・アイドル」というオーディション番組に出演。それがアラブ世界の注目の的となり、一躍誰もが知るアイドルとなる。
ムハンマド・アッサーフが国境を抜け出すときにはコーランの一節か何かを朗々と謳い上げることで国境監視員を感動させて見逃してもらう。以前に取り上げた『少女は自転車にのって』でもそうしたコンテストがあったけれど、アラブ世界ではそうした歌声の素晴らしさに対しての評価が高いようだ。だからこそムハンマド・アッサーフが人気者になったということなのかもしれない。
事実をもとにした作品でムハンマド・アッサーフを演じているのは、役者が演じているわけだが、最後に「アラブ・アイドル」で優勝を勝ち取る瞬間に突然実際のムハンマド・アッサーフ本人が登場して主役を乗っ取ってしまうという演出はちょっとどうかと思った。しかもそれまで演じていた役者よりも、ムハンマド・アッサーフのほうが見栄えがよく見えてしまったりして妙だった。普通なら実話をもとにした作品は現実をさらに美化しようとするものだと思うのだけれど……。
子供時代の部分はとても楽しい。男っぽくてムハンマド・アッサーフに夢を与えることになる姉は、腎不全で亡くなってしまうのだがとてもかわいらしかった。
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