サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

アトム・エゴヤン

『白い沈黙』 謎は解決したものの……

 『スイートヒア アフター』『CHLOE/クロエ』『デビルズ・ノット』などのカナダの映画監督アトム・エゴヤンの最新作。

 誘拐された娘のキャスが生きているという手がかりが8年後に突然現れてきて……。というのが物語のスタート。8年後いまだに監禁状態にあるキャスだが、意外にも清潔な部屋で監視付きではあるけれどそれなりの生活をしているように見える。犯人の男はなぜかキャスを監視すると同時に、ホテルで働くキャスの母親(ミレイユ・イーノス)のことも監視している。しかもその母親の様子はキャスも見ることができるというよくわからない状況で、いったい何のためにという疑問も沸いてくる。

 ※ 以下、ネタバレもあり!

20150824-shiroichinmokuth_-thumb-950x389-12468

 といってもこの作品は謎解きものではないのだろうと思う。事件のあらましはすぐにわかってしまうからだ。キャスを監禁している男は、実は子供を誘拐して商売にしている組織のひとりである。キャスは8年前に誘拐され、その後何をされたのかはわからないのだけれど、「もう大人になったから興味もないでしょう?」などと言っているところに鑑みると、少女が好きな大人から性的いたずらをされたのかもしれず、それを想像すると恐ろしい話なのだけれど、そういう場面はまったくない。

 囚われの身のキャスだけれど、今では逆に少女を誘拐するためにネットで罠を仕掛けている。生きるために強制されているのかもしれないけれど、意外にも楽しんでやっている感じでもある。父親との会話での「ギミックとトリック」という話は、そんな小細工はせずに自由にのびのびとやればいいみたいなエピソードだったわけで、誘拐犯たちに尽くすことがキャスの生きがいみたいになっているというのが妙なところだった。

 エゴヤン作品は結構な割合で金髪美女が登場するようだ。CHLOE/クロエ』アマンダ・セイフライドとか、『スイートヒア アフター』のサラ・ポーリーがいい例だ。この『白い沈黙』でも、キャスを演じるアレクシア・ファストが金髪美女で、誘拐された少女とは思えないくらいすくすくと育っていてとてもかわいい。公式ホームページにもアレクシア・ファストの写真が出ていないのは、誘拐された少女がどうなるかは謎にするためなのかもしれないのだが、映画が始まるとすぐにキャスが登場するわけで隠す意味がよくわからなかった。

 キャスは少女の気を惹くためにかわいらしい格好をしてみたり、父親(ライアン・レイノルズ)と会わせるように懇願したりと監禁されている状態とは思えないからあまり悲惨な感じはしない。題材は結構酷いのだけれど、それに見合うリアルさがまったくないというのは、少女に対する性的虐待などをあからさまに映像化したら映画として成立しないからだろうか。とにかく『デビルズノット』にもモヤモヤしたけれど、『白い沈黙』も褒められたものではなかった。

 ※ 下の写真がアレクシア・ファストこの映画のものではないが)

913edab345742bcf99987ff94031d35d

『デビルズ・ノット』 結局「何もわからない」未解決事件

 以前『CHLOE/クロエ』という作品も取り上げた、アトム・エゴヤン監督の最新作。
 題材としては実在の事件をもとにしている。男児たちが惨殺されたこの事件は、その事件以上に、犯人として逮捕された「ウェスト・メンフィス3」と呼ばれる3人が、実は冤罪であったとして話題になったらしい。

33d5e2e5.jpg

 少年たちが川のなかから死体として発見される。足首と手を結ばれた丸裸の姿は痛ましい。しかも少年たちのひとりは去勢されてもいる。警察はこの猟奇的な事件を、悪魔崇拝の儀式によるものだと考えて捜査を進める。そして犯人は意外に簡単に見つかる。ヘビメタを愛し、オカルトが好きな少年たちが逮捕されるのだ。私立探偵のロン・ラックス(コリン・ファース)は事件に疑問を抱き、独自に調査を始め弁護士に協力して冤罪で逮捕された少年を助けようとする。

 それにしてもアメリカの警察や司法がこれほど杜撰なのかと驚かされるような部分もあった。ウェスト・メンフィスという場所が結構な田舎で、保守的な場所なんだろうとは思うけれど、黒い服を着てうるさい音楽を聴いているからといった理由で明確な証拠もないのに逮捕されてしまうとは……。
 事件の裏に本当の悪魔崇拝者がいるのかどうかはわからない。劇中、悪魔に魂を売ったという「クロスロード伝説」で知られる、ロバート・ジョンソンの写真が登場するのは意味ありげではある。とにかく実際に少年を殺害した者が隠れていることは確かなわけで、「ウェスト・メンフィス3」と呼ばれた少年たちは、隠れ蓑として使われた犠牲者だったわけだ。
 ちなみに彼らが逮捕されることになる証言をした少年とその母親は、単に目立ちたいだけだったという話もあるようだ(このあたりは対談の動画から)。また、母親が悪魔崇拝者たちの儀式を見たとして語っているときに流されているのは『悪魔の追跡』という映画であり、彼女はこれをもとに儀式を現実に見たかのように語っていたわけで、意図はよくわからない。単に目立ちたいだけでそんなことをする人の精神状態は普通の人にはちょっと理解の範疇を超えている。
 実は、この事件をもとにしたドキュメンタリーは、ほかにいくつもあるとのこと(多分英語版のみ)。『パラダイス・ロスト』シリーズは3作目まで登場しているし、ピーター・ジャクソンが製作した『ウエスト・オブ・メンフィス 自由への闘い』という作品もあるらしい。どちらにしても事件が決着するわけではないようだ。

 エゴヤン作品は『エキゾチカ』がとても好きだし、ほかにもカンヌでグランプリを受賞した『スイート ヒアアフター』もよかった。これらの作品では、すでに終わった事件があり、その事件のあった過去と現在の間を行き来しつつ物語が進み、最後に別の何かが浮かび上がってくるという複雑な構成だった。この『デビルズ・ノット』はほとんど真っ直ぐに裁判のあらましを追って行くだけだし、最後になっても被害者の母親パム(リース・ウィザースプーン)が言うように「何もわからない」まま放り出されてしまう(あやしい人物については、字幕で知らされるけれど)。現実の事件が未解決だけに仕方がないのかもしれないけれど、とにかくもやもや感は半端ない。



『CHLOE/クロエ』 アマンダ・セイフライド演じるファム・ファタール

 カナダの映画監督アトム・エゴヤンの作品。2003年の『恍惚』のリメイクとのこと。分類すればおそらくエロティック・サスペンスなんてジャンルに入りそうな作品。エゴヤンの映画は『エキゾチカ』がとても好きで、それ以降の作品もチェックしている。今回は遅ればせながらTSUTAYAで監督の名前を発見してレンタル。

chloe_chirashi.jpg

 『エキゾチカ』でもエロティックなシーンはあるのだが、『クロエ』でも冒頭からアマンダ・セイフライドの後姿からも垣間見られる豊かな胸にドキッとする。この映画はいわゆるファム・ファタールものであり、翻弄される側は大学教授である夫(リーアム・ニーソン)と産婦人科医の妻キャサリン(ジュリアン・ムーア)の夫婦である。主役は妻キャサリンのジュリアン・ムーアで、夫の浮気を疑って夫の素行を知るために高級娼婦であるクロエに仕事を頼むことから物語が始まる。

 「夫の浮気を疑う妻」という昼ドラみたいなテーマから、キャサリンとその夫を誘惑するクロエの女同士の共犯関係へと物語は展開していく。舞台は冬のトロントで、夫婦の住むオシャレな邸宅には清潔感があり、エゴヤン映画の妖しさはひかえめといった感じ。
 主役のジュリアン・ムーアは、夫の愛を失いかけた中年女性を脱ぎっぷりもよく演じているが、この映画での注目はタイトルロールのアマンダ・セイフライドだろう。いかにリーアム・ニーソンが硬派でも、あんな女性に言い寄られたら堪らない。アマンダ・セイフライドは西洋人形的な金髪碧眼のかわいらしいイメージなのかと思っていたが、『クロエ』では何度かベッドシーンもあり、素晴らしい肢体を拝ませてくれる(あくまでチラリとだが)。
 物語はクロエの異常性が明らかになるにつれ、サイコものの雰囲気を醸し出す。その後にひとひねり加えたオチもあってなかなか楽しませる。ジュリアン・ムーアは『キッズ・オールライト』でも、複雑な男女の関係に翻弄されていたわけだが……。ただ脚本が監督本人のものでないからか、エゴヤン作品としてはちょっと食い足りないか。



ギャラリー
  • 『雪女』 見どころは雪女の熱いラブシーン?
  • 『雪女』 見どころは雪女の熱いラブシーン?
  • 『オトナの恋愛事情』 どちらが気楽にセックスできるか
  • 『母の恋人』 懐かしの顔だけれどちょっと気恥ずかしい
  • 『誘惑は嵐の夜に』 母と娘の入れ替わりコメディ
  • 『ジムノペディに乱れる』 ロマンポルノ再び
  • 『無伴奏』 懐かしいあの時代?
  • 『再会-禁じられた大人の恋』 熊切あさ美の主演作品
  • 『歌声にのった少年』 アラビアン・サクセス・ストーリー
最新コメント