『スイートヒア アフター』『CHLOE/クロエ』『デビルズ・ノット』などのカナダの映画監督アトム・エゴヤンの最新作。
誘拐された娘のキャスが生きているという手がかりが8年後に突然現れてきて……。というのが物語のスタート。8年後いまだに監禁状態にあるキャスだが、意外にも清潔な部屋で監視付きではあるけれどそれなりの生活をしているように見える。犯人の男はなぜかキャスを監視すると同時に、ホテルで働くキャスの母親(ミレイユ・イーノス)のことも監視している。しかもその母親の様子はキャスも見ることができるというよくわからない状況で、いったい何のためにという疑問も沸いてくる。
※ 以下、ネタバレもあり!
といってもこの作品は謎解きものではないのだろうと思う。事件のあらましはすぐにわかってしまうからだ。キャスを監禁している男は、実は子供を誘拐して商売にしている組織のひとりである。キャスは8年前に誘拐され、その後何をされたのかはわからないのだけれど、「もう大人になったから興味もないでしょう?」などと言っているところに鑑みると、少女が好きな大人から性的いたずらをされたのかもしれず、それを想像すると恐ろしい話なのだけれど、そういう場面はまったくない。
囚われの身のキャスだけれど、今では逆に少女を誘拐するためにネットで罠を仕掛けている。生きるために強制されているのかもしれないけれど、意外にも楽しんでやっている感じでもある。父親との会話での「ギミックとトリック」という話は、そんな小細工はせずに自由にのびのびとやればいいみたいなエピソードだったわけで、誘拐犯たちに尽くすことがキャスの生きがいみたいになっているというのが妙なところだった。
エゴヤン作品は結構な割合で金髪美女が登場するようだ。『CHLOE/クロエ』のアマンダ・セイフライドとか、『スイートヒア アフター』のサラ・ポーリーがいい例だ。この『白い沈黙』でも、キャスを演じるアレクシア・ファストが金髪美女で、誘拐された少女とは思えないくらいすくすくと育っていてとてもかわいい。公式ホームページにもアレクシア・ファストの写真が出ていないのは、誘拐された少女がどうなるかは謎にするためなのかもしれないのだが、映画が始まるとすぐにキャスが登場するわけで隠す意味がよくわからなかった。
キャスは少女の気を惹くためにかわいらしい格好をしてみたり、父親(ライアン・レイノルズ)と会わせるように懇願したりと監禁されている状態とは思えないからあまり悲惨な感じはしない。題材は結構酷いのだけれど、それに見合うリアルさがまったくないというのは、少女に対する性的虐待などをあからさまに映像化したら映画として成立しないからだろうか。とにかく『デビルズノット』にもモヤモヤしたけれど、『白い沈黙』も褒められたものではなかった。
※ 下の写真がアレクシア・ファスト(この映画のものではないが)。