『サンセット大通り』的なハリウッドの裏話という宣伝文句になっているけれど、ちょっと違った印象だった。『サンセット大通り』で言えば、グロリア・スワンソンが演じた役となるジュリアン・ムーアの壊れっぷりはそれなりにおもしろいし、カンヌで女優賞を取るのも頷けないわけではないが、この映画はミア・ワシコウスカの映画になっていると思う。父親のテレビでの演説を前にして踊る姿が何とも言えずよかった。

 ジュリアン・ムーア演じるハバナが劇中で観ている映画は、ロバート・ロッセン監督の『リリス』を意識しているようだ(クローネンバーグ本人は否定しているけれど)。長い髪のジーン・セバーグが印象に残る作品で、ゴダールも評価しているのだとか。


 ※ 以下、ネタバレもあり。

ミア・ワシコウスカ演じるアガサはクラリスの星の上に跪く。

 アガサ(ミア・ワシコウスカ)のハバナ(ジュリアン・ムーア)への執着を見ると、ハバナの秘書となったのは意図的なものと思える。そのハバナの母であり、今ではハバナに取り付いている幽霊でもあるクラリス(サラ・ガドン)は焼死したのだし、アガサは弟と心中しようとしてヤケドを負っている。戻って来たアガサの姿を両親が恐ろしい亡霊のように忌み嫌うのは意味深だ。そして、母親はなぜか焼身自殺をしてしまうことからも、クラリスの死とアガサのヤケドは何か関係があるし、そこにはアガサの両親も絡んでいるのだろうとは思う。

 そのことに関して詳しい説明はないのだが、アガサの両親は実は兄妹だったことが影響しているのだろう。近親相姦のタブーを破った結晶としてアガサと弟がいるのだし、母親がその結晶を消したくなったりすることもあるかもしれない(実際に火をつけたのはアガサだということになっているが)。

 そんな星の下に生まれついたアガサは、自分の行動にまったく疑問を抱いていないように見える。この世では決して結ばれないふたりが“自由”になるための「星への地図」がアガサのなかに明確に描かれていて、それは確固たるものとしてあるようだ。一風変った心中ものとしてよかったと思う。