チャン・イーモウ監督の最新作。チャン・イーモウは近年は娯楽作なんかも撮っているようだが、そのあたりはスルーしていたのだが、久しぶりにコン・リーが主演ということでちょっと懐かしくて劇場まで足を運んだ。
チャン・イーモウとコン・リーのコンビ作品としては『紅いコーリャン』『菊豆』『紅夢』『秋菊の物語』などがあり、チャン・イーモウのデビュー作『紅いコーリャン』は赤のイメージが鮮烈な印象として残っている。
『妻への家路』は文化大革命に翻弄された庶民の人々を描いている。
陸焉識(チェン・ダオミン)は政府から右派の汚名を着せられ捕えられていた。ある日、逃亡を図った陸焉識は家にこっそりと戻ってくるが、妻の馮婉玉(コン・リー)は当局を恐れて鍵を開けることができず夫を閉め出してしまう。それから3年後文化大革命は終わり、陸焉識は解放されて家に戻ってくるのだが、妻の馮婉玉は記憶障害で夫の顔を忘れてしまっていた。
家に戻った夫とその妻が、扉を挟んだだけで結局顔を合わせることができないというシチュエーションには泣かされた。しかもその娘は自分の立場を優先して父親の情報を当局に流してしまう。それが原因となり、翌日に母と駅で待ち合わせをした父は当局に捕まることになってしまう。この駅での大捕り物の場面は動きがあってとても素晴らしかったと思う。
妻の記憶障害の原因が何なのかはよくわからないけれど、症状的には若年性アルツハイマーのようにも見える。妻は「5日に戻ってくる」という夫からの手紙の言葉だけを信じ、忠犬ハチ公みたいに毎月5日には駅へと迎えに行く。しかし夫が実際に帰ってきても、それを夫だと認識することはない。
夫は妻の病気を理解し、かつて書いていた手紙を妻に送り、自分は手紙を読んであげる親切な人として妻のそばにいるという設定も泣かせる。チャン・イーモウは実生活でもパートナーだったコン・リーの顔に刻まれた年月をアップでじっくりと見せている。さすがに色艶は衰えたかもしれないけれど、コン・リーの表情はとても穏やかだった。
一方で娘役のチャン・ホエウェンはとてもかわいらしい。バレエの主役を射止めたいという上昇志向な女の子で、意志の強さを感じさせる眼差しがとてもよかった。中国のバレエというのが出てくるのだが、京劇の仕草とかが交じっているようで奇妙でおもしろかった。
派手な作品ではないけれど、『紅いコーリャン』あたりでふたりのコンビ作品を観ている人には感慨深い作品だと思う。