監督は『ユナイテッド93』『ボーン・スプレマシー』『ボーン・アルティメイタム』ポール・グリーングラス。主役のフィリップスにはトム・ハンクス

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 グリーングラスの作品には事実をもとにした『ユナイテッド93』があるが、この作品もソマリアの海賊が起こしたシージャック事件が描かれる。冒頭にはフィリップスと妻とのやりとりや海賊側の生活の一部が描かれるが、あとは全編ほとんど海の上の出来事で押し切っている。
 グリーングラスの映画は、手持ちカメラで撮影されたドキュメンタリーのような映像が、めまぐるしくつなぎ合わされて構成される。『ユナイテッド93』ではハイジャックされた飛行機の揺れを感じさせたが、この『キャプテン・フィリップス』でも海上で波に揺られるような体験をすることになるだろう。

 見渡す限りの海なのだけれど、逃げ場がないという点では密室みたいなもので、孤立無援のなかでフィリップスの闘いが始まる。海賊との追跡劇、乗船を避けるための攻防、船室でのかくれんぼと乗組員の反逆、この映画は次々とサスペンスを打ち出してあっという間に事件に観客を巻き込んでいく。囚われたフィリップスが海賊と救命挺に移ってからは、舞台は狭い救命挺になり閉塞感はいや増しに増す。
 ここでうまかったのは、海賊たちの背景も過不足なく描いたことにより、海賊にも単なる悪党以上の親近感を抱かせたことにある。彼らも金を稼いでアメリカに渡ることを夢見る青年なのだ。フィリップスは海賊たちにひとり囚われているわけだが、その周囲はすでにアメリカ海軍が包囲している。フィリップスは当然「生きるか死ぬか」という瀬戸際だが、海賊たちも同様の瀬戸際にいるのだ。海賊がフィリップスを殺せば、彼らは躊躇なく殲滅されるからだ。フィリップスの立場から見ても、海賊たちから見ても、事態は絶体絶命で逃げ場はどこにもない。そんな凄まじい緊張を強いられる作品だ。
 劇的に救出されたフィリップスに共感してしまうのは、観客も彼と同じような絶体絶命の閉塞感を追体験していたからかもしれない。トム・ハンクスの解放されたあとの感情のゆらぎみたいな表現はさすがにオスカー俳優で、ちょっとホロリとさせる。