『第9地区』『エリジウム』のニール・ブロムカンプの最新作。
舞台は近未来の南アフリカ。ロボット警官が犯罪者たちを取り締まっているという世界。そんなロボット警官をつくったディオン(デーヴ・パテール)は、さらに人工知能をそれに組み込もうとするが、上司(シガニー・ウィーバー)に止められる。しかしディオンはこっそり壊れかけのロボット警官を持ち帰って人工知能をインストールしてしまう。
ロボット警官の造形は日本のマンガに影響を受けている。ウサギみたいな耳は『アップルシード』とかのデザインによく似ている。後半に大暴れすることになるヒュー・ジャックマン(珍しく悪役)が操作する兵器型ロボ(?)・ムースは『ロボコップ』っぽい感じだし、ニール・ブロムカンプ監督のオタクぶりが十二分に発揮されている。
人工知能をインストールされたロボット警官はディオンに創造されるわけだが、途中でギャングたちが割り込んできてそれを奪ってしまう。このギャングたちのキャラがまたおもしろい。ニンジャとヨーランディというふたり組は役名がそのまま芸名ともなっているヒップホップグループ(ダイ・アントワード)らしい(ふたりは実際の夫婦とのこと)。パンクな風貌なのに妙にかわいらしい声のヨーランディと、『ドラゴンボール』みたいなパンツにはなぜか「テンション」とカナカナで書かれているニンジャ。
“チャッピー”とヨーランディに名付けられたロボットは、最初はほとんど赤ん坊のよう。人の言葉も理解するし、力も強いのだけれど、まだ何もプログラムされていないため何の役にも立たない。ギャングのふたりは悪事に利用しようとするが、創造主であるディオンは「殺し」だけはダメだと叱る。ロボットにしても教育というのが大事だとよくわかる。ギャングに育てられたチャッピーはヒップホップ系の文化で育っていき、それらしいロボットになっていくあたりがおもしろい。
日本ではカットされてしまったという場面は、兵器ロボ・ムースが、“アメリカ”と呼ばれるギャングの仲間を殺すところ。“アメリカ”はムースによって真っ二つに引きちぎられるのだが、そこがすっかり抜け落ちている。クラスター爆弾をぶちまけて大暴れしていた戦争機械が、“アメリカ”というギャングを殺すというのは、何らかの風刺が込められているのだろう。『第9地区』だってエビ型エイリアンを南アフリカで差別される黒人に重ねていたわけだから。そんな意味では大事な場面を監督の許可なくカットしたのはいかがなものかと思う(追記:リリースされたアンレイテッド・バージョンはカットされた部分が観られるのだろうか?)。
ニール・ブロムカンプの作品としては『第9地区』ほどではなくても、『エリジウム』よりは断然いい。物語の展開は強引だけれど、チャッピーは愛らしくて楽しめた。人の意識がデータとして残せるか否かは難しいところだと思うけれど、その辺もエンターテインメントとしてさらっと描いていて好感が持てる。