その昔『シンプルメン』『トラスト・ミー』が公開されたとき、自分の周囲の映画ファンに薦められて名画座で観た。それなりに人気のあったハル・ハートリーだが最近の作品は、日本では劇場公開されずに終わることも多かったようだ。最新作の『はなしかわって』は久しぶりに劇場公開され(先月DVD化)、DVD化されていなかった過去作品も一気に登場した。



 『シンプルメン』は20年ぶりくらいに久しぶりに観た。しかし覚えているのは女の子が癲癇の発作でひっくり返るところと、ソニック・ユースの音楽に合わせて踊る奇妙なシーンだけだった。このダンスシーンは今観るとゴダール『はなればなれに』の影響を受けていると思われるのだが、当時は『はなればなれに』自体が日本では限定的にしか公開されていなかったわけで、どんなふうに受け止められていたんだろうか? まあそんなことは抜きに楽しいシーンだと思う。

 新作の『はなしかわって』は約60分の中編で、特別なことは何も起きない作品だが、主人公がニューヨークの街を歩き回りつつ、かつての作品よりもとてもテンポよく話が展開していく。普段見ないようなニューヨークの姿が垣間見られる。

 『ブック・オブ・ライフ』は新作ではないけれど、観てなかったので一緒に借りてみた。1999年12月31日の世紀末を描いた作品で、最初のほうで終末論のイメージとして、ニューヨークの空を飛行機が飛んでいる場面がある。この映画が撮られたのは911テロが起きる前なわけで、ちょっと驚いた。ラストではニューヨークに聳えるツインタワーの姿が捉えられている。

a0269273_1283166.jpg

 個人的に一番好みなのは『アンビリーバブル・トゥルース』(かつては『ニューヨーク・ラブストーリー』という題だったとのこと)。この作品はハル・ハートリーの処女作で、のちの作品にも登場する色々な要素が詰まっているし、ちょっと説明するのが難しいとぼけた味わいのある作品だと思う。
 この映画の主役のエイドリアン・シェリーがとてもよかった。エイドリアン・シェリーは『トラスト・ミー』にも出ていた人だが、『トラスト・ミー』では途中からメガネっ娘になってしまうのだが、こちらは頭の悪そうなアメリカン・ガール的なところがかわいらしかった。
 今回『アンビリーバブル・トゥルース』を観たあとに初めて知ったことだが、エイドリアン・シェリーは映画監督としても『ウェイトレス おいしい人生のつくりかた』を撮るなど頑張っていたようだが、実生活でトラブルに巻き込まれて殺されてしまったのだとか……。何とも残念なことだ。