90年代から00年代にかけてのフランスのダンス・ミュージック・シーンが題材となっている。フランスの音楽が流行っていたことすら知らないし、クラブなんかにも出入りしないぼくにはまったくこの映画を語る資格がないのかもしれない。ただミア・ハンセン=ラブ監督の評判(未見だが前作『グッバイ・ファーストラブ』がとてもいいのだとか)を聞いて観に行った。
名前くらいは聞いたことがあるダフト・パンクが登場するものだから、チアーズというDJコンビも有名な存在なのかと思ってしまったのだが、そうでもないようだ(チアーズは実在したようだが、多分知る人ぞ知るというような存在なのだろうと思う)。そんなだから主人公のポール(フェリックス・ド・ジヴリ)が神様などと呼ぶ人物が登場しても、それが現実の大物のことを指していて歴史的な瞬間を示しているのか、単なる成功へのエピソードのひとつなのかがわからずにちょっと困った。
そんな疎い人が見ると、この作品は意外と淡々と進行していくように見える(よく知っている人が見ると違うのかもしれないが)。ただつまらなくはない。もちろんそれは音楽的な良さもあるのかもしれないけれど、第2部に入ってからのほろ苦い感じがとてもよかったのだ。
ダフト・パンクが数少ない成功者だとしても、ほかには星の数ほど挫折していく人たちがいるわけで、チアーズもそこそこ成功はするもののダフト・パンクにはなれない数多くのほうになることになる。そのなかには夢破れてというかほとんど自滅していくように自殺してしまう人がいたりもするし、ポール自身も借金とドラッグでにっちもさっちもいかない状態になる。
数多い恋人たちが登場するが、そのなかでも一番重要なルイーズも主人公を捨てて日常生活へと戻っていくわけだが、ポールはいつまでもモラトリアムを抜け出せないあたりが身に染みる。冒頭でアニメで描かれるカラフルな鳥が登場するのだが、それは二度と姿を現さない。ポールが追っていたのはそんな幻の鳥の姿ということだろうか? DJの夢をあきらめた後でダフト・パンクの曲(Within)がかかるシーンがとても印象に残る。
ポールの恋人役には『フランシス・ハ』のグレタ・ガーウィグとか、名前もない小さな役柄でもかわいらしいフランス娘たちが登場する。それでもやはりルイーズを演じたポーリーヌ・エチエンヌが一番好み。20年に渡る物語の最初から最後まで登場していろんな姿を見せてくれる。