サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

吉田恵輔

『ヒメアノ〜ル』 おもしろうてやがて悲しき映画哉

 原作は『ヒミズ』『行け!稲中卓球部』などの古谷実

 監督は『銀の匙 Silver Spoon『ばしゃ馬さんとビッグマウス』などの吉田恵輔

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 前半のいささかのんびりしたラブコメから一気に転調する後半がとても恐ろしい。キャストたちはとても原作のイメージに合っていたと思う。マンガチックな顔立ちの濱田岳佐津川愛美がアホっぽくいちゃつくのは可愛らしいし、そのカップルからはじき出されてしまうことになるキモイ男役のムロツヨシはおいしいところを持っていった。

 とはいえこの映画の主人公は殺人鬼森田を演じた森田剛で、ジャニーズタレントがここまでやってもいいのだろうかという妙な心配をしてしまうほどだった。森田が演じるのは中学のときにいじめられ、みんなの前でオナニーをさせられたりした挙句に狂気に陥ってしまったという男。とにかく常軌を逸していて、手当たり次第に殺しはするはレイプするはで、完全に死刑は確定だからかえって恐いものがないという……。そんな男に狙われたから濱田と佐津川のカップルは大変なことになるのだが、最後はそんな森田にちょっと同情してしまうというところがミソだろうか。

 

 佐津川愛美がとてもよかった。マンガのキャラはもっとマヌケなところがあったように記憶しているけれど、佐津川愛美のくりくりした目はマンガのイメージにあっているし、結構大胆な濡れ場も演じていてびっくりした。濱田とのベッドシーンではバストトップは一応無理やり隠してはいるけれど、バックの体位でやられたりして奮闘している(この体位が別のシーンとカットバックされているところが見どころとも言える)。

『銀の匙 Silver Spoon』 やりたいことがないって素晴らしい

 『麦子さんと』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』などの吉田恵輔作品。吉田作品としては初めての原作もの。その原作は、アニメ化もされているという人気漫画。今年3月に劇場公開され、10月15日にDVDがリリースされた。

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 進学校で落ちこぼれた八軒勇吾(中島健人)は、やりたいことが見つからないまま、親元から離れたい一心で、全寮制の農業高校へ入学する。周りは農家の跡取りばかりで、やりたいことがない八軒はちょっと異質な存在だが、彼らと触れ合ううちに八軒も変っていく。

 農家の現状を訴える部分と、後半ではスポ根ものの王道の展開が合わさったような形で、そつがない作品だったと思う。
 牛乳は農家からの買い取り価格が1リットルで83円だとか、可愛がって育てた豚でさえも、1頭で2万5千円くらいの肉にしかならないという話は、なかなか厳しい業界を示している。借金で離農に追い込まれる同級生もいる。
 経済動物という聞き慣れない単語が出てくるが、これは経済活動の一環として飼われている動物で、そんな動物たちはどんなに頑張って生きていても、時がくれば殺されて食べられる運命にある。そうした命をいただかないと生きてはいけない人間がいるからこそなのだが、だからこそおいしく食べてやるということが大事なのかもしれない(八軒がつくったベーコンはおいしそうだった)。
 本当はどこかで誰かが動物を殺し、血を抜き、肉を切り分けているわけで、何もはじめからパック詰めされているわけじゃないのだ。普段、豚などを殺す場面を見ていない消費者としては、罪悪感もなくそうした肉をいただいているわけだけれど……。吊るされて斬られる豚のおしりが結構生々しかった。

 後半はスポ根もののようになる。文化祭での手作りのばんえい競馬は青春映画らしい盛り上がりを見せるし、それなりにメッセージ性もあって泣かせるところもある。八軒は逃げ場所として農業高校へ向かったわけだけれど、生きるためには、時には逃げることも必要だ。また、やりたいことがないということは、これから何でもやりたいことが見つけられるということでもある。人生の岐路にある若者にはぴったりの映画かもしれない。
 ただ吉田恵輔作品としてはちょっと食い足りない感じも残った。原作の存在があるからかもしれない。原作の世界に縛られると、自由度は少ないだろうから。素晴らしい脚本を書ける人だけにちょっと残念。

 ヒロイン役の広瀬アリスはコメディエンヌに成りきっていたが、マンガチックなほどにはっきりした目鼻立ちで、本当はえらい別嬪さんなんだろうと思う。そのライバル役で黒木華が珍しく(?)アホな役を演じているのもおもしろかった。吹石一恵は『トゥームレイダー』のララ・クロフト風がぴったりはまっている。


『麦子さんと』 人の振り見て我が振り直せ

 『さんかく』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』などの吉田恵輔監督の作品。昨年末に劇場公開され、先月、DVDが発売された。

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 兄(松田龍平)とふたり暮らしをしている麦子(堀北真希)の家に、母親の彩子(余貴美子)が帰ってくる。彩子はふたりを捨てて家を出て行ったのだ。母親との生活が始まるわけだが、捨てられたという過去からか関係はうまく行かない。麦子は「あんたを母親だなんて思ってないから」とまで口走ってしまうが、そうこうするうちに彩子は病気で死んでしまう。そんな母親のお骨を持って地元の町に帰省すると、麦子は人気者だった彩子のように歓迎されることになる……。

 親と子の関係を描く、取り立てて驚くべきことはない映画だけれど、やはりとてもよく出来た映画だったと思う。誰も好き好んで親不孝をするわけではないのだけれど、なかなか親孝行は難しい。結局「親孝行したい時には親はなし」なんて言葉通りになってしまうことも多いのかもしれない。麦子の場合もそうで、自分の心に素直になることが出来ず、母との最後の日々を後悔とともに振り返ることになる。
 
 彩子がアイドルを目指していたという部分は、麦子自身が声優を目指していることと重なっている。麦子が素直になれない部分は、部屋に泊めてくれたミチル(麻生祐未)にダブる。ミチルは会いたいけれども子供に会えないという点で、友人だった彩子の立場と同じだ。麦子としてはミチルが彩子と重なって、自分の親不孝な態度を差し置いてミチルに酷い言葉を投げかけてしまう。そんな麦子の親不孝な部分は、旅館の馬鹿息子とも同じで、麦子は地元で母親・彩子を知る人たちと触れ合うことでその人の欠点に気づき、そのことで自らを反省する。ほかの登場人物も麦子と会うことで、自らの姿に気づくことになる。
 こんなふうに登場人物が相対化されていく感じがこの映画にもあって、それは「人の振り見て我が振り直せ」的な教訓としても役に立つかもしれない。なかなか自分の欠点に気づくことは難しいし、わかっていてもそれを直すのはもっと厄介なものだから。わかっていても何だかんだ泣かされる映画である。



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