サイの角のように 独りよがり映画論

映画について自分勝手な感想の備忘録。ネタバレもあり。 ほかのブログから引っ越してきました。

園子温

『ひそひそ星』 園子温の念願だった作品

 園子温の最新作。オリジナル作品としては『希望の国』以来の作品。モノクロ(一部カラーもあり)でとても静かな作品。

 最近はバカ騒ぎばかりの作品が多かったのは、結婚もして雇われ監督として金を稼ぐつもりなのかと思っていたのだが、ここに来てオリジナル作品をシオンプロダクションの第一弾として、しかも娯楽を廃した芸術作として発表してきた。

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 現在、宇宙は機械によって支配され、人工知能を持つロボットが8割を占めるのに対し、人間は2割にまで減少している。アンドロイドの鈴木洋子は、相棒のコンピューターきかい67・マーMと共に宇宙船に乗り込み、星々を巡って人間の荷物を届ける宇宙宅配便の仕事をしていた。ある日、洋子は大きな音をたてると人間が死ぬ可能性のある「ひそひそ星」に住む女性に荷物を届けに行くが……。(映画.comより引用)

 

 ぼくがこの映画を観た日には上映終了後には、園監督の奥様であり主演を務めた神楽坂恵さんと、園監督のドキュメンタリーを撮った大島新監督との対談があった(ちなみに大島新さんはあの大島渚監督の息子さん)。

 神楽坂さんの本名は「園いづみ」だとか。園作品で「いづみ」という女性が主人公になりがちだったのは、園監督の母親が「いづみ」であったことでもあり、のちに奥様となる神楽坂恵さんも「いづみ」だったかららしい。そんな神楽坂さんはイベントではすっかりプロデューサーの雰囲気だった。

 この作品は園監督にとって大事な作品で、それを新会社の第一弾として近しい人たちだけでつくることにも意義があったようだ。大島新監督もこの時代にこうした作品がつくられるのは貴重なことと語っていた(この作品は『希望の国』と同じように福島の風景を捉えた作品でもある)。

 ただ一方で作品の感想としては「好みが別れるだろう」といったことも語っていて、ぼくも個人的には朦朧としながら観終わったというところ。本当に何も起きないのだ。水道の蛇口から水が滴るだけで1日が過ぎるとか、本当にミニマルな映画なのだ。

 静かな宇宙船の雰囲気とか、火をかかげながら歩き回るシーンなどあちこちでタルコフスキーを意識させる。タルコフスキーも眠りを誘う部分があるけれど、一度ぐっすり寝たあとにもう一度チャレンジするととてもその良さがわかる作品なのかもしれない。神楽坂さんは火をかかげながら歩き回るシーンで久しぶりに園監督に怒られたそうで、そんな意味でも園監督の本気度がわかるエピソードだった。園監督は意外と役者を追い込むばかりではないようだ。

 この作品は25年前に構想した作品とのこと。『ラブ&ピース』もかつてのアイデアの蔵出しという部分があるようだが、過去を整理した園子温がどこへ向かうのかはやはり気になるところではある。

『ラブ&ピース』 園印満点のファンタジックな怪獣特撮映画

 『地獄でなぜ悪い』TOKYO TRIBEなどの 園子温監督の最新作。

 前作『新宿スワン』は、原作はマンガで脚本はほかの人が担当しているため、園子温らしいところが少なかった。それでもキャラクターが豊かで楽しめる作品だったし、沢尻エリカが『ヘルター・スケルター』のときよりもボリュームアップした身体で、ほとんど下着姿ではしゃぎ回るのも見せ場だった。今度の『ラブ&ピース』は脚本もオリジナルだし、エログロはないけれど、園子温らしい力技で見せた映画だった。

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 『地獄でなぜ悪い』でもハイテンションなところを見せた谷川博己が、今回も主役の鈴木良一を演じて大活躍。ダメ・サラリーマンからロック・ミュージシャンへと成り上がって見せる。誰からも蔑まれるような風体で登場し散々いじめられた挙句、たちまち忌野清志郎というかグラム・ロック的なきらびやかミュージシャンへと変身する。

 そんな願いを叶えるのは、良一が飼っていたミドリガメのピカドン。ピカドンは良一に捨てられて流された地下で出会った老人(西田敏行)にそんな力を与えられる。しかしその力は良一の願いを叶えるほど、ピカドンの身体を大きくしていく。良一の欲望に合わせて巨大化したピカドンは街へと逃げ出してビルを破壊するほどになる。

 そんなわけでこの映画は特撮映画でもあるのだ。巨大化したカメと言えば、もちろんガメラを思い出すわけだが、こっちのカメは妙に愛らしいマンガちっくな様子で、その声もとてもかわいらしい。最初は違和感があったけれど、だんだんと愛着も湧いてくる。

 それから良一が歌うラブ&ピース」という曲はあまりうまくはないのだけれど妙に耳に残って、映画を観た後にもリフレインしている。『地獄でなぜ悪い』のときの「全力歯ぎしりレッツ・ゴー」も良一に歌わせているのには噴き出してしまった。

 西田敏行が仕切る地下の場面は、人形やオモチャが命を吹き込まれたようにしゃべり出すというファンタジックなところ。園子温は今までになかったようなファンタジーに加え、特撮怪獣映画までやってみせたわけで、それが成功しているかどうかはともかくとしても意欲的に新しいジャンルに挑戦しているようにも感じられる。

 ヒロインを演じた麻生久美子は変身しないまま終わってしまった。地味だけれど、聴いている音楽はロックっぽい感じで、素性が判明すると変貌を遂げるものだとばかり思っていだたけにちょっともったいないようにも思えた。


『BAD FILM』 園子温の幻のフィルムがDVDに

 園子温監督が1995年に撮影しながらも未完だった作品。今回、初期作品集に合わせてようやく完成させたものとのこと。本編161分の大作だ。

 製作は1995年あたりだと言うから、園監督がメジャーデビューする前で、まだ自主制作のような泥臭い感じを残している。とは言え、そのころに園が主催していた「東京ガガガ」というパフォーマー集団(?)が中心にいるからこじんまりとした感じはなく、奇妙奇天烈な連中が騒ぎまくるというエネルギッシュな映画である。

 園監督によれば、本来の結末は地下鉄でテロが起きるはずだったのだという。実際には地下鉄サリン事件が起きたため、その結末ではなくなっているわけだが、この映画で描かれる外国人排斥の騒動は、ちょっと前の在特会(在日特権を許さない市民の会)とそれに反対するグループとの抗争なんかを思わせなくもない。この映画自体はそうした政治とは無関係だと思うけれど、時代を先取りしていた部分もあるようだ。

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 日本人のグループと中国人のグループが対立するあたりはTOKYO TRIBEを思わせなくもない。実はそのグループを横断するようにほかのグループが出来てきて、それがゲイ&レズビアンのグループだというのがおもしろい。それでいて両者の仲立ちをするはずの通訳のふたりはなぜか融和を嫌っていて暗躍することになる。

 TOKYO TRIBEは巨大なセットを作り、こだわったカメラワークなども披露していたわけだが、BAD FILMは手持ちカメラでとにかく人を追い回している。舞台は東京の中央線沿線を中心にしていて、ゲリラ的に撮影したものと思われる。なかには渋谷のスクランブル交差点や、新宿駅前をほとんど占拠するような場面も登場する。撮影許可なんか下りないだろうから好き勝手にやっているはず。高円寺あたりの電話ボックスを破壊しているシーンがあるけれど、大丈夫だったのだろうか? 大半はデタラメなエネルギーの発散にも見えるのだが、妙に少女趣味みたいなところがあったり、詩的でもあり、その後の園作品の色々な萌芽が垣間見えるような気もする。

 

 特典映像としてその時代に園監督がやっていた「東京ガガガ」という運動(騒動?)に関しても収められている。外見的には遅れてきた学生運動みたいだが、政治的な主張はなく、とにかく安定した社会に対する園子温のいらだちみたいなものは感じられる。その騒動を傍から見ている人の視線も映されていて、唖然とした表情には胡散臭いものを見ているというのが明らかである。ただ一方でそうした騒動に参加した人も多かったようで、当時「東京ガガガ」に参加した人は2000人くらいいたのだとか。

園子温監督 『地獄でなぜ悪い』 悪ふざけでなぜ悪い

 仁義のために映画を撮りたいやくざと、映画を撮りたいがためにやくざの出入りに参加する映画バカ。そんなあり得ない設定のハイテンション・ムービー。
 前作『希望の国』では題材がデリケートだったからか、園子温らしさに欠けたところがあったが、今回の演出は役者たちのテンションもマックスで、荒唐無稽な展開も有無を言わせぬ強引さで乗り切ってしまっている点で園作品らしい。

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 『地獄でなぜ悪い』のクライマックスのやくざの出入りにおける滅茶苦茶さは、タランティーノの『ジャンゴ』の銃撃戦よりもはるかにスゴい血の量と悪趣味さで、もはや笑うしかない。まあ全体的にもコメディなんだけど。
 堤真一の顔芸は、彼の役者としての今後を心配してしまうほどのクオリティ。二階堂ふみに引き回される星野源は戸惑ったような表情が絶妙だが、『スタンド・バイ・ミー』のゲロシーンみたいな大噴射には爆笑した(やくざに追い回されて恐怖のあまり大噴射してしまうのだ)。
 また今回の映画では、園監督作詞・作曲の歌も聞ける。『エクステ』では大杉蓮の口ずさむキモイ歌があったが、今度は少女が歌うCM曲だ(「全力歯ぎしりレッツ・ゴー」という歌詞が耳から離れない)。その少女がキューブリックの『シャイニング』みたいな血の海を滑っていくところが本当に素晴らしい。これは二階堂ふみによっても繰り返されるのだが、今回の二階堂は胸の谷間も露に、ショートパンツ姿で暴れまわる。ちょっとエロい。

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 『地獄でなぜ悪い』は、『アメリカの夜』みたいな映画愛についての映画とも言える作品で、ブルース・リーや深作欣二へのオマージュ、ジョン・ウーみたいな銃撃戦、清順みたいな美術、最後はスプラッタ映画的惨劇と、もはやなんでもあり。「悪ふざけ」と言えばそうなのだが、自分の好きなことに徹しているのがいいし、「悪ふざけでなぜ悪い」と言っているようでもある。ラストでは主役の映画バカ長谷川博己が雨のなかを疾走していくが、初期作品でカメラを持って走り回っていた園子温監督自身の姿を思い起こさせる姿だった。





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