予告などの雰囲気では、佐藤健綾瀬はるか主演のちょっとした恋愛ものかと思いきやそうではない。意識のなかに入り込むという設定だけに、主人公の意識次第でどうにでも世界をいじることができるわけで、監督の黒沢清はそのアンリアルさをうまく使って好き勝手なホラー演出をしている。

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 その演出は怖がらせるというよりも監督の遊びにも思える。『回路』では死の世界から出てきた幽霊がとにかく恐ろしかった。ただ女性が近づいてくるだけなのだが、そこでカクンと姿勢を崩す場面が、シェクスピアの「世の中の関節が外れてしまった」なんて言葉を思わせるほどの圧倒的な瞬間を生み出していた。
 そうした映画から比べると『リアル~完全なる首長竜の日~』のホラー演出は生ぬるい。佐藤健のバックに何もない空間があって、音楽が高鳴れば、当然そこに何かが出てくると思いきやスカしてみたりするのにはかえって驚いた。一方で漫画家である主人公の描く屍体が出現する場面では、何の盛り上がりもなしに屍体が転がっていたりするのだ。メジャーっぽい作品としては、そんなに怖くしてはいけなかったということなのか。とにかく意識下の世界という自由度を利用して、黒沢清監督が好き勝手に遊んでいるようにも思える。
 後半になると、どんでん返しもあってホラー映画ではなくなっていくのだが、そうなると結構退屈とも言える。タイトルにある首長竜の秘密もそれほど驚くべきものではないし、『ジュラシック・パーク』のようなアクションも、首長竜は肉食恐竜ではなく手足がヒレのようになっているものだから、アシカなんかを思い出させて緊迫感に欠けるのだ。